ワクチンが捨てられようとしている


平成21年4月に突然世界中に蔓延した新型インフルエンザの記憶は、まだそう遠いものではない。
メキシコに始まった新型インフルエンザの対策に日本でも右往左往、毎日のニュースのトップを飾った。
成田空港をはじめとする検疫検査で、機内に完全防疫スーツで乗り込む姿に国民の恐怖心は最高潮に達した。
ノースウエスト機から感染者が出た、との当時の舛添大臣の緊急会見、その後日本各地で感染者が出る度にマスコミ報道は加熱したものである。
幸いに感染力は強いものの症状は比較的軽いこと、またタミフルをはじめとするお薬がよく効くということもあり、パニック現象にならなかったのは幸いであった。
インフルエンザの対策で一番有効であるワクチンも国内で11月には配布が始まった。
しかしその管理は従来の季節性のインフルエンザワクチンとは全く違う形で開始された。
100%国の管理のもと、接種順位の取り決め(優先接種者)が決められ、医療機関への配布数も完全管理で開始された。
優先接種は医療従事者、ついで妊婦及び基礎疾患を有するもの、1才から小学3年性まで、1歳未満の小児の保護者、ついで小学6年生まで、高校生に相当する年齢と順次拡大、年が開けて65歳まで、そして2月1日に全員が接種可能という順番で接種が行われた。
その間もワクチンの管理は100%国、県によって行われ、その配布数も極端に少なく、希望するもの全てに接種できたわけではなかった。
大学受験を控えた受験生が接種できない、18歳まで可能になった時でも18歳を過ぎた浪人の受験生は現実には接種できなかった。
接種受託医療機関には朝からワクチン接種を求める予約電話がひっきりなしにかかってきた。
インフルエンザワクチンは開封するとその日のうちに接種しなければならいが、例えば10mlのボトルが配布されるとその日に20人近くに接種しなくてはならない。
余れば廃棄せざるを得ないのである。
中には廃棄するのはもったいない、ということで優先接種者ではない親族に接種をして問題になり、接種受託契約を解除された医療機関も出たのである。
東京では各医療機関がワクチンを持ち寄り、人数を集めて集団接種をしようとしたところ、ワクチンの譲渡を禁じている行政からクレームが出る、という出来事もあった。

そうしてこの4月現在新型インフルエンザはほとんど姿を消した。
ワクチン接種を希望する者もいなくなった。
しかし各医療機関には今も新型インフルエンザザワクチンが在庫として残っている。
実は新型インフルエンザワクチンは国が管理すると同時に返品でなきないとしているためである。
あれだけ足らないといわれていたワクチンがもうすぐ廃棄される運命にある。
すでに今年10月から開始される次年度のワクチンはA型やB型の季節性と新型が一緒になることが決まっており、今在庫の新型ワクチンは必要性はなくなる。
国が輸入を決めていた海外製のワクチンは実質使われることはなく、契約解除、またすでに入っていた輸入ワクチンも廃棄を待つ状態である。
なんとももったいないと思うのと同時にワクチン接種のシステムの改善策はないものかと嵐が過ぎ去った今思われるのである。

2010年4月 記