生きた英語

        松山市平和通

        耳鼻咽喉科

        末光清貞


 ムリカン ヘップレ、タップ トゥオニー、ブルー クネアリーこれがお 分かりでしょうか。
American Hit Parade, Top Twenty, Blue Canaryが正解である。
日本語英語ではアメリカン ヒットパレード、トップ トゥエンティー、ブルー カナリアとなる。
どうしてこの日本語英語は実際の発音とこう違うのであろうか。
原因は2つ考えられる。

 1つは日本の英語教育にある。
日本人は12才で、中学1年生から英語を習う。
一番頭の柔らかいときにCをシー、Vをブイ、Zをゼットとインプットしたのでは、いわゆる日本語英語しか出てこないのは仕方がない。

 私が中学一年生の時の先生は、シィー、ヴィー、ジィーと教えてくれた。
Fは必ず下唇を噛むように、Nはエンヌ、THは上下の歯で舌を噛む様に、と本当の発音である。
しかし日本の受験英語では必要なく、私の頭からはぬけていった。
むしろこういう発音をすると笑われるのが現実だった。

 もちろんヒアリングの講座もなく、殆ど100%文章からの英語を勉強してきたものが、いま生きた英語が聞けないのは無理からぬことである。
また現実に学校の先生に生きた英語が聞ける人がいるとも思えない。
 Sometimesをソメチメス、Handkerchiefをハンドケルチーフも笑えない話である。

 帰国子女が学校で笑われるために、無理をして発音を変えるという。
将来、笑った方が笑われるとも知らないで。
2番目の原因は、耳の違いである。
日本語は、ほとんどの言葉が母音のみ、もしくは母音と子音の組合せでできている。
それに対して英語の場合は、子音のみや、半濁音の繰り返しなどが多い。
日本人の耳は明らかに母音と子音の組合せしか聞け無くなっている。
従ってリズムも単調で、英語に比べると抑揚が少ない。
英語はリズムの言葉で、日本語は一字一字の繰り返しの言葉と言える。
その証拠に、英語の語学検定試験で、日本人はアジアで最低に近く、韓国、中国より下まわる。
それは韓国語、中国語の方が子音、半濁音を聞くのに耳が慣れているのである。

我々のつかう外来語にも、文字からきたものと、明らかに耳からきたものがある。
ほとんどはローマ字読みをしたものだが、ワイシャツ(White shirts)、メリ ケン波止場(American)、ヘボン式(Hepburn)等は耳から入っている。
しかし同じつずりでもオードリーヘップバーン(Audrey Hepburn)となってしまうのは、文字から入っているからだ。
耳からだとアージュリーヘボンとなるはずだ。

 日本語は、長年の鎖国により、人種と共に守られ育まれてきた。
中曽根首相の発言どうり、日本は単一民族、単一言語で発展してきた。
たった26文字で全てを表現できる英語に比して、平仮名、片仮名、漢字の3っつの文字を駆使し、さらには敬語、ていねい語などを持つ日本語は非常に複雑である。
しかし、その複雑な日本語を自由自在に使いこなす日本人の思考能力は優れたものといえる。
そのおかげで、今や日本は現実には世界一の国になった。
世界で日本ほど安全で、豊かな国はない。
私は15年前にアメリカへ行ったが、その時はアメリカは日本より明らかに数年進んでいた。
その後、5年前に行ったときにはもうその立場は逆転していた。

 日本人は、儒教の教えのためもあり勤勉実直。
働かざるもの食うべからずである。
働いているときが一番幸せな国民だ。
遊んでいると不安になる。絶対に西欧のようなレジャーの文化にはならない。
 安くていいものが世界で売れるのは当り前だ。
しかしその結果が今の貿易不均衡問題。
今のアメリカ人は幸いに本当の日本をまだ知らない。
防衛のほんどをぶら下がり、全くと言っていいほどアメリカ商品を使わない。
自分達の税金で守ってやっている国が、貿易で莫大な利益を得、さらには自分達より豊かな生活、豊かな医療を受けている事を知ったら、それこそまたまた戦争になりかねないと思うのは思い過ごしだろうか。

 最近韓国、台湾の工業力の進歩が著しい。
日本と同じ儒教の教え、教育に対する熱意。
先日のテレビで、台湾で社員教育を英語で行っている風景が紹介されていた。
既に鉄鋼、造船など多くの部門で日本を追い越している。
更にその分野の増えることは明白だ。
日本はこのままではいずれ世界から取り残されてしまう。
もっともっとインターナショナルにならなければならない。
そのための手段が英語なのである。
吉田首相がアメリカとの講和のために交渉しているとき、アメリカ人は彼の喋る英語の90%が理解できなかったという。
多分吉田首相もアメリカ人の言うことの90%分からなかったであろう。
戦前、駐英大使をしていた人がである。

 ソニーの会長は随分英語の達者な人で、日常会話の不自由はまったくないが、しかしその世界戦略の上で、より確実性を得るため、NHKの同時通訳で有名な西山千さんを迎え入れたという。

 大韓航空撃墜事件のとき、ソビエト戦闘機の無線交信の録音を公表するかしないか、ホワイトハウスと深夜に電話で1対1の交渉をしたのは、日本大使館の若干32才の書記官だったという。

 受験英語は学問として立派に完成されている。
しかしいま現実に必要なのは、生きた英語である。
言葉の50%以上は耳から入ってくるものだ。英語が聞こえないということは、いくら読めても半分以下の理解度しかない。
耳からの英語を今の教育に、しかも頭の柔らかい時期に聞かせることが必要だと思うのだがーーーーー。