医療情報 松山市医師会総務部医療情報課 末光 清貞 医療情報という言葉は非常に大きな、幅広い意味を持っています。我々医師の立場か ら言えば、医師の耳、眼を通して入ってくる、また医師の口や手を通して出て行くすべ ての情報が医療情報、という事になります。入ってくる情報では患者さんとの問診、視 診、検査データすべての内容が医療情報です。厚生省や医師会からの広報誌やお知らせ 、医学書、新聞、テレビやラジオの内容だって医療に関係あるもの全て医療情報です。 他の医療機関の先生からの電話やFAXも含まれます。出ていく情報としては、患者さ んへの説明、カルテの内容、処方箋、紹介状など、話す事、手で書く事全てが含まれま す。 そういった医療情報を医師としてはカルテに記入したり、手帳や日記として残し、本 棚にならべて整理しています。それが医療情報を整理する手段です。整理してはじめて 後でその情報を取り出して確認する作業が可能になるわけです。 最近医療情報を扱うメディア(媒体)としてコンピュータの利用が進んでいます。そ の理由は情報を伝える能力が高い事、その計算や整理をする処理が簡単で早い事、蓄積 能力に優れている事、後で確認するための検索や再現性が高い事などがあげられます。 要するにコンピュータを利用する事によって医療情報の取り扱いが楽になる、と言う事 です。従来の眼や耳、紙や手帳、本棚、しいては記憶に頼っていた情報処理や整理をコ ンピュータに置き換えるわけです。特に最近はパソコンの性能が向上したのと、値段も 手ごろになり、今や一人一台から、一人二台という時代になっています。パソコンを利 用しない手はありません。特に医療情報の様に文字だけではなく画像や音声、動画まで 扱えるパソコンは医療情報にとっては格好の道具になりうるわけです。 医療情報の分野での最近の大きな流れは、インターネット、電子カルテ、医療カード の3つです。 インターネットはその利用者が爆発的に増加しており、一般家庭での普及率も上がっ ており、日常での情報収集や情報発信の有力な手段となっています。特に企業内での利 用が高まって、ビジネスの世界では必要不可欠なメディヤです。日本医師会でもその認 識のもと、med.or.jpというドメイン(名称)で情報発信しています。愛媛県医師会でも 4年前より、松山市医師会でも本年よりホームページや電子メールで医師会員の利用が 高まっているところです。今後も利用者が増える事は間違いなく、現在の利用料、電話 回線や専用線の料金も下がってくると予想されます。 電子カルテは厚生省がカルテや画像の電子媒体での保存を認めましたので、正式に利 用出来るようになりました。早いところではもう導入されていますが、各メーカーの製 品が出そろい、値段競争も始まればもっと安くなって身近な物になると思われます。た だ電子カルテはカルテを電子化したもの、と考えるより患者データベースであると認識 してください。しかしまだシステムとして完成しているものは少なく、入力したり管理 したりするのにかなりの知識と労力が必要ですので、その壁は結構高いと考えられます 。 医療カードで今一番問題になるのは保険証です。現在の保険証は旧来の様式のままで 、1世帯に1枚になっています。医療機関にかかる機会の多い家庭ではしばしば窓口での 確認がスムースにいきません。保険証をICカードにして1人1枚にするというパイロッ トスタディーは八代市で既に終了しており、次には全国展開するはずですが、遅々とし て進んでいないようです。1人1枚になると受診率が上がってしまうという変な議論もあ るようですが、外国では随分以前に実現ざれている事なので、実現されるのは間違いあ りません。ただカードに検査データを入れる、とか処方内容を入れるとかの整理が出来 ていないのは事実で、日医、厚生省の指導力の発揮が必要な事項です。基本的にはカー ドは個人認証に使う、というのが原則です。 医療における情報処理においては、その技術的な面、それに法律的な面も加わり、他 の業種や分野に比べてかなり遅れています。しかしいつまでも古いシステムにぶら下が っているより、より新しいシステムに挑戦する意気込みが今一番大切だと考えておりま す。 1999.10.19