バリへ行く
四季録


 「けいちゃん、バリ島へ行かない?」。ジャズヴォーカリストのチカさんから電話があった。チカさんとは、松山で共演したのがきっかけで七年の付き合いになる。
 彼女が今年一月に「インドネシアの子供達を救おう」の趣旨でチャリティコンサートをしたことは聞いていた。世界には食料や医薬品の不足から栄養失調の子供達は多い。しかし援助物資を送っても子供達まで届かないことが多いそうだ。インドネシアも例外ではない。そこで寄付金をチカさん自らがバリ島へ持参し、直接施設へ届けた。寄付金は子供達に確実に届き、百パーセント役立ててもらえたのである。そして「今度は是非、当地でコンサートを」ということになったのだ。チカさんが事のいきさつを話し終えるのと、私の返事は同時だった。答えはもちろん「イエス」。
 プロの演奏家のチャリティコンサート出演には、出演料が有る場合と無い場合がある。有る場合は仕事だからいいが、無い場合は少し悩ましい。プロはそれぞれがプロとしての自己規範を持っている。それは、仕事であれば何をおいても行かなければならない、という意識である。また、仕事が重なれば自分にとっての意義を考えて選択する。だから、仕事を放り出してのボランティアは考えどころなのである。
 私の「イエス」は、彼女が「栗田敬子となら楽しくチャリティー活動ができる」と思ってくれたことに対する喜びの声だった。何より嬉しかった。そして”神々の島”バリの青い空と青い海、心地よい風に包まれて、気持ちよーく演奏している姿を思い浮かべてワクワクした。
 「松山のメンバーでトリオを組めるかなあ」ということだったので、私も少し悩んだ。チカさんと相談の上、ドラムは堤宏文さん、ベースは渡辺綱幸さんにお願いした。お二人とも本当に快く応じて下さった。 
 そして七ヶ月が過ぎ、いよいよバリ島へ出発の日。私はバリに十数年振りに再び行くことができてウキウキ。演奏も楽しみだ。写真家としても知られる堤さんは、楽器に加え大きなカメラバックを二つも下げて空港に現れた。バリでウッドベースの調達は難しいため、渡辺さんはエレクトリック・ウッドベースを抱えての旅である。さあ、バリを楽しむゾー!堤さんも渡辺さんもそんな顔をしていた。楽しい旅になりそうだ。

栗田敬子 ジャズピアニスト