旅と食
四季録


 食べることは大好き。美味しいものを探すことも好き。だけど、こだわりはない。ひとりで食べるときはインスタントものでも美味しいし、何より時間を取られたくない。友達と食べるときは何でも美味しく食べ、しゃべる。美味しいものだと、尚楽しい。
 旅に出たときは少しこだわってしまう。その土地でしか食べられないものを食べてみたい。私は好き嫌いがないので、ためらいはない。「旅の食べもの思い出創り」と言いたい。
 先月行ったバリでの食事は、主にホテルでのインドネシア料理。日本の焼き鳥と同じ「サテ」、中華料理の炒飯「ナシ・ゴレン」、八宝菜「チャプチャイ」など、どれも日本の味と似ていて美味しかった。「サンバル」という唐辛子の効いた調味料が必ず添えられる。暑いところではこの調味料が食を促した。
 仲間と相談して、バリの「食べもの思い出創り」は、ロブスターに決まった。ハワイやオーストラリアで食べたロブスターはとても大きかった。大きなロブスターを思い浮かべた。現地ガイドが案内する店はホテルから予想以上に遠く、「まだかな、まだかな」の気持ちにロブスターはどんどん大きくなっていく。わざわざ空腹にしていたのは些かいやしかった。ようやくレストランに着き、前菜やスープが出てそれなりに満足していた。わいわい、がやがやとおしゃべりしながら待つ。いよいよロブスター登場。全員注目!アレー?そこには車エビと間違えそうな小さいロブスター。誰も「小さいね」と言わないほど小さかった。賑やかだったテーブルが静かになった。ドロロ〜ンって感じだった。しばらくの沈黙の後、私が「小さいね」と言った。あまりに膨らませ過ぎた期待とのギャップに落ち込んだ自分たちが可笑しくて、それからは小さなロブスターをネタにしゃべり、笑い、楽しいバリを語り合った。
 「旅の食べ物思い出作り」が楽しいか楽しくないかは一緒に行く仲間次第。何を食べても文句を言う人や、すっかり食べた後で「あんまり美味しくなかったね」と言う人、すごく小食の人といろいろ。私は、食べることと食べる時間を大いに楽しみたい。私と同じ気持ちの仲間と一緒にいることが嬉しかった。旅で「何を食べた」でなく、「誰と食べた」も思い出になる。バリの郊外のレストランで、小さなロブスターを囲んでしょげたり、笑ったり。バリを共にした仲間との時間が懐かしい。

栗田敬子   ジャズピアニスト