のど自慢
四季録


 「キンコンカン」でお馴染みのNHK「のど自慢」。50年以上続いている長寿番組だ。子供の頃、日曜のお昼ご飯を食べながらテレビは「のど自慢」だった。「のど自慢」は歌のコンテストではないので、上手い人も下手な人もいる。プロ顔負けの熱唱に箸を持つ手が止まったり、調子はずれや、面白い動きに家族中で大笑いした。高校生の頃は地方の田舎色と敬老を強調した「ダサイ番組」なんて思ったりもした。
 まさか、その番組の伴奏の仕事をしようとは思ってなかった。先輩方の薦めで一九九二年から伴奏者に加えていただいた。四国で年三回「のど自慢」がある。今まで二十四カ所で伴奏をした。伴奏の仕事は前日の土曜日の予選から始まる。はがきの応募で選ばれた二百五十組の伴奏をする。これはなかなかの重労働だ。一曲は一分足らずで流れていくが、次々変わる譜面を見ながらの演奏は疲れる。短い時間に賭ける出場者の懸命を思うと気が張る。知らない曲もある。伴奏がうまくいかないときは心の中で大声で謝るが、落ち込んでいる暇はない。どんどん進む。午後二時から始まった予選が終わるのは六時近く。目も耳もボロボロ。身体もヘトヘト。苦行のような時間から解放されたのだからすぐさま引き上げるところだが、「どの人が残るか」などとひとしきり伴奏者同志で盛り上がる。番組制作に参加しているかの口ぶり。みんなこの仕事が好きなんだなあ、と思う。
 先月末、久万町の久万中学校体育館で公開生放送が行われた。土曜日の予選を終え、日曜の朝会場に着くと、本番出場の二十組が決まっている。思っていた人が入っているか気になって確認する。一分足らずの短いお付き合いなのに昔からの知人のようだ。予想した顔ぶれと審査員が選んだ顔ぶれはそう大きくは違わない。元気一杯はじけた人、ぐっと引きつけて聴かせた人、ほのぼの温かかった人。そういう人が選ばれている。
 そうして本番。振りをつけて歌う高校生を見て、自分の高校時代を思い出したり、亡くなった母親のために歌っている姿にうるうるしたり、一生懸命歌っているおばあちゃんを見て、私もかわいく年を取りたいと思ったり、心を感じる歌に引き込まれたり。私は伴奏しながら「のど自慢」を思いっきり楽しんでいる。 

栗田敬子  ジャズピアニスト