私のクリスマス
四季録


 クリスマスの一ヶ月前になると、デパートや商店街はクリスマスの飾り付けが施され、クリスマス曲が流れ始める。私もしまい込んだ冬物を引っ張り出すように楽譜を取り出し、クリスマス曲を演奏し始める。
 クリスマス曲も時代と共にバラエティに富んできた。クリスマス・キャロルをかっこよくアレンジしたものや、ポップスではジョン・レノン&ヨーコ・オノの「ハッピー・クリスマス」、ワムの「ラスト・クリスマス」等々。日本のアーティストものもある。山下達郎の「クリスマス・イヴ」、ユーミンの「恋人がサンタクロース」等々、数限りない。期間限定ではもったいないような素敵な曲も多い。一年中苺が食べられるように、季節に関係なくいつでもクリスマス曲を演奏してもいいようなものだが、二十五日が終われば「また来年ねー」と片づけられる。クリスマス曲の命は蝉のように短い。
 バブル期ほどではないが、十二月二十三、四、五日は毎年どこかのクリスマス・パーティやレストランで演奏している。「こんな因果な仕事を選んだのは誰?」と悔やんでも空しいだけ。二十代半ばだったか「人並みなクリスマスを過ごしたい」と演奏の仕事を受けずに素敵な男性とのクリスマスを待ったが、空振りに終わった。それ以来無駄な努力は止めている。
 クリスマスはいろんな思い出がある。私は小学六年生までサンタクロースの存在を信じていた。ケーキを囲んで家族でクリスマスをしていると、「ピンポーン」と玄関チャイムが鳴る。出てみると誰もいない。プレゼントが置いてあ〜る。という寸法だ。何の疑いもなく騙されていた私も幼いが、「親の演技力はなかなかのものだった」と未だに感心している。
 こんな風にサンタクロースやプレゼントを目を輝かせて待っている子供達の様子を唄った歌がある。私が一番好きなクリスマス曲「ザ・クリスマス・ソング」だ。メル・トーメとロバート・ウェルズのコンビによる曲で、ナット・キング・コールが歌って大ヒットした。子供向けの曲が多い中、大人っぽいシックなメロディが魅力で、それに歌詞がいい。クリスマスの楽しい情景が唄われた最後に「♪〜私はこの簡単な言葉を一歳から九十二歳の悪戯っ子達に捧げよう。もう何度もいろんな形で言い尽くされているけれど”メリー・クリスマス・トゥ・ユー”♪」この一節が好きだ。この曲を歌う度、演奏する度、子供の時のファンタジックなクリスマスを思い出しては心温めている。 

栗田敬子  ジャズピアニスト