今年の目標
四季録


 私のジャズピアニストとしての本格的なスタートは一九八一年。二〇〇一年には二十周年を迎える。長くなった。これまで続けて来れた幸運と支えて下さった皆様に対して「お陰様で」の言葉を心に刻んでいる。
 とりあえず三年がんばってみよう、と始めたとき決心した。三年経ってみると、明らかに始めたときより面白くなっている。当初の目標だったアドリブも何とかできるようになっていた。でも、第一の目標に到達するとまた次の目標が生まれる。フレーズの間のこととか、ジャズのノリのこととか、アドリブの構成のこととか。やっと掴んだと思った目標がまた先へ進んでいる。
 その点スポーツには羨ましく思うところがある。スポーツにも「スポーツ道」というような大きな目標があるのだろうが、例えばゴルフだと、「百を切る」とか「シングル」とか段階的な目標がはっきりしている。ジャズにはそれがない。ジャズに限らず芸術はすべてそうだと思う。止めない限り目標と自分との追いかけっこは続く。
 ジャズ史に残る独自のスタイルを確立したピアニストは数えるほどだ。テディ・ウィルソン、バド・パウエル、オスカー・ピーターソンやビル・エヴァンス。「あなたの好きなピアニストは?」とよく聞かれる。私の場合、スタイルを確立したピアニストはどの人も好き。それぞれに魅力があるし、お手本になっている。でも「あなたのピアノは○○風ですね」という評価のされ方には抵抗がある。
 小曽根真がニューヨークでデビューする前は、ピーターソンを片っ端からコピーしてピーターソンそっくりに弾けるほどだったという。でもそれだけでは世界に通用するピアニストにはなれなかったはずだ。ピーターソンを土台にして彼自身の世界を創り出したことで、日本を代表するピアニストとして世界で活躍している。
 ジャズピアニストはそれぞれのスタイルを創ろうと努力する。「自分のスタイルの確立」は最終的で唯一の目標だと思う。私はその目標をいつも気にしながらも「まだまだ自分のスタイルなんて・・・」などと言い訳しながら遠ざけていた。「ジャズ史上に残るスタイルの確立」などと大それた事は端から考えていない。ただ、今まで続けてきて、そろそろ自分らしい自分のスタイルを確立させたい、栗田敬子の世界を創っていきたい、と思っている。二十周年を前に私の今年の目標としたい。

栗田敬子   ジャズピアニスト