コード
四季録


 「アドリブ」と「バッキング(伴奏)コードのハーモニー」はジャズがジャズであるための必須である。そしてアドリブをしたりハーモニー・ヴォイシングをする鍵はコードが握っている。
 コードは和音の構成音を表す記号で、アルファベットや数字で記される。例えばCは「ドミソ」、G7は「ソシレファ」という具合。「和音には協和音と不協和音があり、協和音は美しく安定した感じで不協和音は汚く不安定」と学校で習った。悪者みたいに言われていた不協和音をジャズでは逆に積極的に用いる。非和声音を入れて不協和音程を作ることで一種の緊張感を感じさせる事ができる。これがジャズのサウンドになる。Cは「ドミソ」。でもこのままではジャズの匂いはない。ドから数えて九度目の音を加えた「レミソ」や長七度目と十三度目の音を加えた「シミラ」にするとジャズが響いてくる。いかにアドリブが素晴らしくてもハーモニーが「ドミソ」だと、そのアドリブは生きない。ハーモニーが刺激的で魅力的だとその響きに触発されてイメージ広がり、予期せずいいアドリブができたりもする。曲の雰囲気によってもヴォイシングは変わる。「いかに効果的なヴォイシングをするか」はピアノなどのコード楽器プレイヤーにとっての重要な課題だ。
 ジャズを演奏するときは、メロディの上にコードが書かれた簡単な譜面を使う。ジャズで取り上げる曲は三十二小節程度の短い曲が多い。メモのような譜面を見て演奏していると不思議に思うのか、「こんな短い譜面でどうして何分もの演奏ができるの?」「暗譜してるんですか?」ときかれることがある。通常ジャズの演奏は、まず曲のメロディを提示し、その曲のコード進行に沿ってアドリブ演奏。最後にもう一度メロディを提示して終結する。三十二小節の曲なら、アドリブで三十二小節を何回繰り返すかによって曲の長さが決まる。
 さて、譜面上に並ぶコードについて。アドリブの時は、個々の響きより流れをチェックする。ジャズで有名なコード進行に「ツー・ファイブ」と呼ばれる進行がある。キーがCなら「Dm7−G7−C」。説得力のあるアドリブをするためには、ひとつひとつのコードに対してのフレーズも大事だが、むしろG7からCへの変わり目のフレーズが要チェックだ。ここでのフレーズに歌心やセンスが大いに表れる。
 ジャズミュージシャンはまさに「コード中に潜んでいるジャズを引き出している」と言えるだろう。

栗田敬子 ジャズピアニスト