続ブルーノート
四季録


 ブルーノートはスタンダード曲でも用いるが、特にブルースはよく使う。ブルースは十九世紀中頃、アメリカの南部の黒人たちによって歌われ始めた音楽だが、スタイルそのものも指す。「TWTT、WWTT、XWTT」という特有で定型のコード進行で、十二小節で構成されている。
 ブルース曲は楽器によって得意のキー(調)がある。ピアニストの私は断然Fのブルースが好き。トランペットはBフラットが、アルトサックスEフラットが好き。ブルースはジャムセッションなどで即興を楽しむことが多いので、譲り合って共通にやりやすいキーに落ち着く。それでジャズではブルースはF、Bフラット、Eフラットが多い。カウント・ベイシーの曲でDフラットのブルース「ワン・オクロック・ジャンプ」があるが、ちょっと遠慮したい気持ちになる。もちろんすべてのキーを練習することは大切です。
 ブルーノートの特徴をあげてみよう。ブルーノートは頑固なトナリティ(調性感)を持っている。例えば、「ファ、ラのフラット、シのフラット、シ、シのフラット、ラのフラット、ファ」というフレーズ。ブルースのワンコーラスの間、ずっとこのフレーズを弾き続けることができる。というより、同じフレーズを続けることで力がみなぎり、ミュージシャンも聴き手も共に興奮し熱くなる。ブルーノートはただやみくもに使ってもブルージーな演奏にはならない。フレーズに一定の方向性がある。ブルーノート・スケールを上がったり降りたり回したりの音使いが多い。第三、五、七音が半音下がった音がブルーノートと言ってきたけれど、正確には半音の中間音(クォーター・トーン)である。そしてこの微妙な音程がブルーノートの命。でもその音はピアノで表現するのはとても難しい。半音下からひっかけるように弾いたり、フレーズの上もうひとつ音を伸ばしておいたり、何とかそのニュアンスを表現しようと夢中になる。さらに、長調の曲なのにブルーノートで第三音がフラットするため短調のようでもある。でも第七音もフラットするので短調でもない。この曖昧な感じがエネルギーと憂いを醸し出すのかもしれない。
 ブルーノートという具体的な音だけでなく、ブルースが自己表現の音楽だったことがその時代のミュージシャンに影響してジャズは生まれた。ブルーノートはブルースに不可欠だが、それだけの表現では煮詰まってくる。現代のジャズはブルーノートにとどまっていない。ブルーノートから離れても「ブルースを感じるジャズ」をしたいと思っている。

栗田敬子  ジャズピアニスト