ジャムセッション
四季録


 ミュージシャンが集まっている。「何か演ろうか?」「”枯葉”なんてどう?」「OK!」「じゃあ、テーマはトランペットでよろしく。テンポはこのくらいで・・・」こんな風にジャムセッションが始まる。簡単な打ち合わせと合図で即興的に演奏をする。楽譜はいらない。これを「ジャムセッション」または「セッション」という。知り合いでも初対面でも、初心者もベテランも、言葉の通じない外国人とも演奏できる。そんな楽しさがジャムセッションにはある。
 これが出来るのは、ジャズには多くのスタンダード曲がありミュージシャンが共通に覚えていること、そしてアドリブがあるからだ。ジャムセッションに参加するためにはある程度以上の曲を覚えている必要がある。この場合の曲とはメロディーだけではなく、進行・構成・解釈なども含まれる。その理解の上にアドリブを自分で創作できる能力が持てるようになってジャムセッションに参加するのが望ましい。
 「思う存分アドリブができる」という楽しさやアドリブの試行錯誤を含めた「トレーニングの場」を求めてジャムセッションに参加する。聴き手はほとんどが演奏者本人達だし、遠慮はいらない。聴き手が演奏者だからこその緊張もある。「この演奏で力量を判断される」というオーディション的な要素や「へたなことをしているとみっともない」という自意識がしばしば演奏のじゃまをする。どんな場面でも平常心でアドリブをする、という「心の修練の場」でもある。
 ジャムセッションはジャズ演奏の上達のための必須の場である。本やレコードでは学べないことを覚える。既に練習したことの実験ということだけではなく、そこにはミュージシャン達がそれぞれの音楽経験で身につけたものを伝え、受け継ぐ、という大きな意義がある。セッションをすることで先輩から学ぶものは大きい。同輩とはお互い激励し刺激になる。後輩にとってはジャズに触れる貴重な体験になる。アドリブ術でもってテクニックを高め、精神修養を行ない、感性を磨いているとすると、私達にとってジャムセッションはジャズ道を極めるための場。少し大袈裟だが、「ジャズの道場」と言えるかも知れない。
 とにかくジャムセッションはジャズの醍醐味。味わうと、もう止められない。もしジャムセッションに居合わせたなら、この醍醐味を少しでも感じていただけたら嬉しい。

栗田敬子  ジャズピアニスト