ユニオン・ジャム
四季録


 昨年、ジャムセッションのハウスバンドを勤める機会があった。日本音楽家ユニオンが二ヶ月に一回行っている「ユニオン・ジャム」だ。「プロミュージシャン推薦の新人ミュージシャンのセッション」で、ハウスバンドはお手本バンドの意味もある。
 場所は新宿「DUG」。「DUG」は近々の閉店が決まっていた。私が「DUG」で演奏できる最後のチャンスだった。大森明(AS)等の滅多に演奏できないミュージシャンとカルテットを組めるというのも嬉しかった。
 セッションは我々ハウスバンドの演奏でスタートした。参加者の喰い入るような耳と目を感じながらの真剣勝負。久しぶりに汗をかいた。
 そしてユニオンのメンバーに呼び出されて新人達の登場。管楽器が多いのに驚いた。フロントにアルトサックス、テナーサックス、トランペット、トロンボーンがズラリと並んで、数コーラスずつアドリブしていく。彼らの背中に漂う緊張が初々しい。アドリブは堅すぎたり、とりとめがなかったりと場慣れしていないことからの不安定感はあるものの、出てくるフレーズには覚えたばかりの喜び溢れる新鮮さがある。そんなフレーズに「イエー!」と賞賛や激励のかけ声がとぶ。新人とは思えないこなれたプレイもあり、動揺する。コーラスが回ってきて、ベテランらしいプレイをしようとしてかえって焦る。グッと自分に戻して自分の表現をする。
 新人の中に高校生もいた。女子高生のヴォーカリスト。彼女の歌は伸びやかで声量もたっぷり。その上、エラ・フィッツジェラルド(VO)のフレーズをコピー(模倣)して完璧に歌った。会場に静かな驚きが流れた。素晴らしい素質を持っている。でもコピーは自分の世界を創る一段階にしか過ぎない。コピーが将来彼女の個性となることを会場のみんなが期待していた。
 ベテランミュージシャンが高校生の男の子(P)とのセッションに真剣に取り組む姿もあった。曲はチック・コリアの「マトリックス」。ブルースだが、テーマはリズムのキメやドラムとの掛け合いがありややこしい。セッションは初めての高校生が、自分が得意な曲というだけで希望した曲。こういう曲はセッションではあまりやらない。にも関わらずベテランは真剣勝負をしていた。その姿は私には輝いて見えた。
 5時間に渡る「ユニオン・ジャム」で、私はフレーズや曲を覚えることに一生懸命だった頃の自分を懐かしく思い出していた。そして「いつまでの音楽に対して真剣で純粋であり続けたい」と心に刻んでいた。

栗田敬子  ジャズピアニスト