神社とジャズ
四季録


 伊佐爾波神社にお参りに行ったドラムの堤宏文さんが、神社内でジャズを聞いた。神社とジャズ、意外だが不可思議な調和を持つその組み合わせに、好奇心を抑えきれず宮司さんに尋ねると、大のジャズ好きとのこと。
 伊佐爾波神社は一六六四年松山藩主松平定長により建立された。道後温泉駅から近い道後山の東南にある。本殿は国の重要文化財になっているが、他に指定を受けていない絵馬や宝物類がたくさんあり、修復や保全の必要性がある。ここでジャズライブをして入場料の一部をその費用に充てる、と言うことに一気に話は進んだ。そして、宮司さんと堤さん、有志の協力で、九四年秋「名月ジャズライブ・アット・ザ・イサニワ」が行われた。
 白い漆喰壁と朱の柱の鮮やかさが、落陽と共に闇に馴染む。十月下旬の夜は冷える。冷気の中でまず神事がありライブに続く。いつものライブとは違う何か落ち着いた気持ちとすがすがしさがあった。
 神様の御前でピアノを弾くこと、それは音楽をする人間にとって絶えることのない「誰に向かって演奏しているのか、聴き手に対してなのか、自分に対してなのか、共演者に対してなのか」という悩みを解決した。神様に私のピアノが届いているかしら、お客さんは私達の音楽を通して神様とお話ができているだろうか。実際神様の御前で演奏することで、「誰に向かって」の答えは明らかになった。多くのミュージシャンが言うところの「神に対して語りかけること」という究極の答えを確認した。
 特に信仰心がなくても人は祈る。健康を祈ったり、安全を祈ったり、いい演奏ができますようにと祈ったり・・・。祈りも音楽も大昔から人間の生活になくてはならないものだ。祈る心と、音楽をしたり聴いたりする心には、共通点がある。安らぎや昂揚というような心の原点を求める心だ。それをより強く感じられるのではないか、という期待感が神社でのライブにあるように思う。
 途中に中断もあったが、伊佐爾波神社のライブは、春と秋、年二回のペースでこれまで八回行われた。残念ながら今春の予定はないが、次回のライブには是非足を運んで、不思議な空間を楽しんで欲しい。ジャズは神社がよく似合う。

栗田敬子  ジャズピアニスト