2010 蒲谷敏彦CHINA REPOR 
蒲谷敏彦
(ぶたに・としひこ)

 今年4月から3度目の海外勤務。中国蘇州に赴任したビシネスマンの中国レポート。駐在員ならではの現地レポート。
松山では、MPRO、シンシアに乗るヨットマン



蘇州 Map


中国 Map


 

CHINA REPORT 2010

―― 双春賦 ――

 こちら中国では明日から春節休み、今日は仕事納めの日です。ですから、今日の挨拶は『新年好!(良いお年を!)』になります。『では、この仕事は来年早々に始めましょう』

なんて言うので、そんなぁ〜 1年後なの? いくら中国式といえ、あまりに悠長じゃないか! と一瞬思うのですが、この時期の来年とは春節休み明けのことを言っているので、1週間または2週間後のことです。年の始まりはあくまでも春節なんですね。でも、新正月が唯一の正月だと思っている日本人には、先月1月下旬に行われた2009年会社忘年会とともに、どうも納得できないような、未だにしっくりこないお話です。

5年前に当社に入社した、5人の若者のうち4人が結婚して、3人に子供が生まれました。数年前の猪年はこちらでは金の豚年で、この年に生まれた子供は一生お金に困らないとか。その前年に駆け込み結婚するカップルが続出しました。また、2008年には北京オリンピックにあやかろうと、8月に結婚式を挙げるカップルも多かったようです。そして、2009年。中国建国60周年の年でもあったのですが、後半からやたらに結婚式が多い。今度はなんのおまじないか? と思っていましたら・・・

『来年は春がないんですよ』

『春がない?』

『そう、今年は春が2回で来年は春が無し』

『どういうこと?』

どうも、通訳を通しての話は見えないことがよくあるのだが、それにしてもいくら温暖化の進んだ地球でも、春が2回あったり全然無かったりする一年があるものか! 春が来て夏が過ぎ秋になり冬到来、それが四季のある蘇州の1年というもので、それで私の住んでいるマンションの名前も『四季新家園』なんだと、自分でも訳の分からないことを考える。

『2009年は1月26日が春節(旧正月の元旦)で、2月4日が立春。2010年は2月4日が立春で、2月14日が春節です。

ねっ! 今年は立春が2回で、来年は立春が無い年になるんですよ! それで今年は『双春年』と呼ばれて、今年結婚するカップルは一生幸せになれるんです』

『じゃあ、春の無い来年結婚するカップルはどうなるの? 』

『さあ、それは・・・』

 

社用車の運転手の分かったような、分からないような説明で今年1月まで妙に結婚式が多かった理由はよく分かりました?

来年は結婚式場やウェディングドレスの仕事が商売あがったりで、ミルクやベビー服やオムツの赤ちゃんビジネスが好景気だということでしょう。中国株を買うなら今ですよ!

 

昨年(これは2009年のこと)の中秋節前の頃、取引先の総経理(社長さんのことを中国ではこういいます)の息子さんが結婚されるそうで、披露宴に招待されました。この総経理は無錫市の郷鎮(まあ村というところです)の共産党書記長も兼ねていて、村の顔役です。村のお偉いさんの結婚式なので、高倉健さん主演の映画『単騎千里を走る』の村総出の披露宴を想像して、興味津々で会場に着いてみると・・・



              夜の部の披露宴準備中
ベンツやBMW、レクサスが並ぶ近代的な4つ星ホテルの2階の会場は10人掛けテーブルが50も並べられ、昼の部が終わったばかりで私たちの出席する夕べの部の準備がされています。2部制? 10人掛けで50テーブル=500人 それが2部=1000人! 昼は親戚縁者と村人が中心で夜の部は会社と友人関係だそうで、昼の部でしこたま飲んだ(ような)花婿の父である共産党書記長が紅い顔で説明してくれます。この地域では一番の高級ホテルらしく、待合ロビーで食前酒が配られてきます。 

あまりの豪華なスケールに戸惑った私は、付き添いの営業担当者にお祝い金はいくらくらいが相場なのか訊いてみました。

『いろいろですよ。1000元(1元=14円くらい)の人もいれば、1〜2万元出す人もいますよ。蒲谷さんは日本人ですからお気持ちだけでいいです』

10人掛けの一テーブルの料理だけで3000元、いつものように赤(ワイン)や白(中国焼酎)や黄色(紹興酒)のお酒とタバコ(高級タバコは一箱60元もする)、お土産まで合わせると純原価は一人あたり600元くらいか? とあわてて計算する。当社の社員の結婚式ではお祝い金を400元(中国では奇数より偶数がよいらしく、お祝い金も偶数で)くらいにしていたが、どうも今回はレベルが違うらしい。600元準備していたご祝儀袋にそっと400元足しました。日本式の金銀の水引のご祝儀袋で、たぶんこの会場で一番綺麗な包みだけど、中身は一番少ないかも?

 この5年で中国の物価は毎年10%近く上昇して、もう1.5倍くらいでしょうか? 市内バスの料金は1元が2元になったし、私の散髪料金は35元が45元に。昔(といっても5年前だけど)は100元といえば、日本の1万円の感覚だったけど、今は5千円くらいかなあ。結婚式のご祝儀もずいぶんインフレです。




4年前の春、労働節休みの前に婚前休暇をくれと若い工員が申請してきました。結婚休暇は法律で通常3日、晩婚は13日休めるそうで、晩婚は何歳からか? と訊いたところ男25歳以上で女は23歳だという。日本では30歳で結婚しても近頃晩婚なんていわれないだろうに、なんとも中国だなぁと思ったものです。結婚してからの休暇は法律で定められているが、婚前休暇とはまた何事かと尋ねると、蘇州から四川省の田舎に嫁探しに行くので1ヶ月休ませろと言います。1ヶ月はやれない、2週間で帰って来い、探してきたお嫁さんを私に見せろ。という条件で休みを取らせました。帰省するのに3日、一週間目で叔父さんから紹介された娘さんとお見合いをして、どうも断られたらしく・・・ 来週別の女性とまたお見合いをする、という電話をしてきたっきり連絡が取れなくなりました。 

労働節休みが明けた頃、1ヶ月ぶりにひょっこり件の工員が出社してきました。どうにかお嫁さんを見つけたが、彼女が蘇州に出てくるのに旅費が要る、ついては会社から600元前借して婚約者に送りたいと今度は言う。送ったところで女性は来ないのではないか? 人生の先輩として言うけれど、それは騙されているのではないか? よく考えたほうがいい。じゃあ自分でどうにかします。と言ったきり彼は会社を辞めました。600元あげた方が良かったかしら。そのくらいの価値があったんですよ、当時の600元は。

そんなことを思い出しながら、豪華な結婚披露宴に出席しています。本当に50のテーブルが来賓で全部埋まって、7色の仮面を次々と変えてゆく変面ショーやらクラシックギターの演奏がされる中、ご両親を従えた新郎新婦がテーブルを廻ってきて、男性一人一人タバコに火を点けてくれます。日本だとキャンドルサービスといったところでしょうか。こちらはまだまだ喫煙の国ですから、お客様のお持て成しは、一にお酒、二にタバコです。キャンドルサービスと同じように、タバコに火が点き難いようにお酒を付ける人や、タバコを高く掲げて新郎がウェディングドレス姿の花嫁を抱っこして火を点けさせる様にする者や、何せ500人からのお客さんですから時間がかかること夥しいのです。

中国の結婚披露宴の面白いところは、室内で鳴らす爆竹や花火でなく、通り一遍の来賓挨拶でなく、回りから囃し立てられて恥ずかしそうにする新郎新婦のキスシーンでもなく、その披露宴の終わり方です。中国に来て初めて当地の披露宴に参席したとき、来賓代表挨拶をさせられ、そのころまだ珍しい中国料理を次々と食べ、宴も酣な3時間ばかりが経過したころ、デザートのスイカが出たのを合図のように、お客がばらばらと帰ってゆきます。私は最後の親族(または新郎)挨拶くらい聞いてゆけよ、と帰らずにがんばっていると、

『あのう、もうそろそろよろしいでしょうか・・・』

と、新郎が挨拶に来ました。なんでも、偉い人が残っていると周りの人が帰りづらいとか。お開きの万歳三唱もなく、勝手に空気を読んで三々五々退席するのが中国式マナーだったのでした。

          客もまばらに帰った宴のあと

そんな失敗談を思い出しながら、同じテーブルの関連業者の副総経理さんたちと乾杯したり、中国の景気の話しをしたりします。今日は500人の来客と親族関係者の中に日本人は私一人だと思うと、何だか妙な安心感?充実感?を感じていました。 昔(これは10年も昔だろうか・・・)は異国で日本人一人になったりすると、心細く大変不便に思ったりしましたが、この頃は逆に気を遣うこともなく空気を読む煩わしさもなく、周りの異国人に変な目で見られても日本人はこんなものよ、という開き直りで過ごせるようになりました。乞食は3日(3ヶ月だったかな?)やると止められないと言いますが、海外駐在員は3年(そのくらいかかるかも)やると止められなくなります。こちらは異邦人、いつもゲストだと思うと案外いい気分なのでした。

来年は春がないとはいえ、春節が終わると暖かくなり梅も桜も咲く季節になります。どこで花見をするかなあと思っていたら、どうも日本になりそうです。そんなびっくり仰天なお話はまた来年の心だあ〜。新年好!皆様もう一度良いお年をお迎えください。

                           来年に続く(?)

第14回:

 
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