蒲谷敏彦のKOREA REPORT 7月号
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――― W杯の残したもの―――
7月1日(月) 韓国では、W杯の日として急遽国民の休日になりました。
韓国チームがスペインを破ってドイツとの準決勝に進んだ時点で、政府が
国民の強い希望を請け、ドイツに勝って横浜決勝に進むようであれば、
応援に行く人々が学校や会社を心配なく、月曜日に移動できるように決勝戦の翌日を
休みにすべきかとの検討に入りました。実際には、選手へのプレッシャーを考慮したのか、準決勝の前日に勝敗に関係なく、国民がW杯を誇り追憶する日として休日にしました。
ということで、本日は雨が降って天気は悪いのですが家でゆっくりしています。
この1ヶ月の韓国でのW杯フィーバーを総括するには絶好の日となりましたので、
『月刊 KOREA REPORT』が日刊になってしまいそうですが、連続でお送りします。
サッカーがあまりお好きでない方には退屈かも知れませんが、あと一回
お付き合いください。
テ〜ハミング マンセ!(大〜韓民国 万歳!) 世界的に有名になりました
さて5月のある日、日本大使館からのお達しがFAXで送られてきました。
渡航情報(スポット情報)
(件名)韓国:ワールドカップ・サッカー大会の開催に関連したご注意
1.来る5月31日から6月30日までの間、韓国においては日韓共催のワールドカップ・サッカー大会が開催されますが、開催期間中は、一般犯罪等が増加することも懸念されますので、特に同期間中に、韓国へ渡航・滞在する方は安全対策に十分ご注意ください。
2.同大会期間中、フーリガンによる騒動やテロ事件等の不測の事態が発生する可能性は完全には排除できません。現在までのところ具体的な情報はありませんが、最新の治安情報の収集に努め、競技場周辺等において危険な状況や事件に巻き込まれないよう十分に注意して下さい。云々...
心配してくれるのはありがたいのですが、なんだか韓国には来るな、競技場には近づくなみたいな感じで興ざめでした。(韓国ではW杯期間中、強盗などの重大犯罪が昨年6月と比べて12%減少とか。特に韓国の試合中は31%の減少だそうで、悪人もW杯を見るのが忙しかったのか?)
と思っていると、今度は仁川(インチョン)市から郵便が届きました。また、交通違反事実通報(KOREA REPORT 3月号参照)か? でも仁川には車で行っていないけど?と思っていたら、仁川市長からの手紙でした。曰く、
仁川ワールドカップ文鶴競技場入場券購入者の皆さんへ
平素より我市の市政発展に多くの感心と惜しみのない声援を送ってくださり、誠に感謝申し上げます。合わせて私ども仁川ワールドカップ文鶴競技場へ来て下さることを心より歓迎するところであります。
21世紀を迎え最初に開催されるFIFAワールドカップ・サッカー大会は単なるスポーツ行事ではなく、政治・経済・外交・社会・文化等各分野において、国家間の相互理解と協力を図る総合的な国際行事の場であり、世界中の人々が参加するお祭りの場です。云々...
から始まり、美しい観戦文化を我々皆が作り出してゆくための注意事項が書いてありました。
1.大会当日は公共交通機関を利用しましょう。
2.ゴミになるようなものは競技場に持ってゆかないようにしましょう。
3.安心して競技場に入場するためには最低3時間前には競技場に着くようにしましょう。
4.競技場には搬入禁止物品は絶対に持ってゆかないようにしましょう。
各項目には具体的な指示が書いてあります。
日本と韓国それぞれのW杯への期待と力の入れようの好対照を見る思いがしました。全部が全部ではないんですが、日本ではフーリガン対策ばかりが目に付きましたし、W杯を前向きに楽しむ気持ちが出ていないようでした。こうして始まった、日韓それぞれのW杯は皆さんご存知のとおりでした。
韓国がドイツに負けた翌日、天安(チョナン)工場から車で帰っていると、ラジオで視聴者参加番組をやっていました。20代のOLや40代の主婦や中にはおばあちゃんが、好きな韓国代表選手に応援ラブレターを読むというもので、息子と同い年なんだと言いながら、
『イ・チョンス ソンス エゲ (李天秀選手さんへ)
私の可愛いチョンス、あなたは本当に一生懸命サッカーをやっているわ。私はあなたが誇りです。どうか、今度のトルコ戦でも1点入れてください。期待しています。云々...』
本人が朗読した後、選手に捧げる歌を歌います。『南行き列車』(なんで? 大邱であるから?)など、決してうまくなかったりするんだけど、国民は本当に代表選手達を誇りにし、愛しているんだなぁと思わせます。
中でも今国民に一番愛されているのは、ヒディング監督でしょう。韓国に帰化して年末の大統領選に出れば当選するかも知れないという、冗談まであるようです。実際、ヒディング監督を帰化させようとの運動や次回のW杯まで継続して代表監督をしてもらおう! ヒディング通りを創ろう! 大学は名誉経営博士号を贈るし、銅像を建てる話や大韓航空のファーストクラス乗り放題まで何でもヒディングです。経済界では『ヒディング方式』がもてはやされています。企業経営にヒディング監督の手法を取り入れようという訳です。ヒディング方式とは次の3つです。
1.強力なリーダーシップ
2.実力主義の人材採用
3.科学的分析手法
特に2番に関しては、一般的にソウルの大企業はソウルにある大学出身者しか採用しないなど、地縁・血縁・学閥が未だに残っている韓国社会において真の実力主義が新鮮な驚きだったのです。
仁川スタジアムにて
赤い悪魔のスタジアムでの応援では、カードセクションという人文字も注目されました。イタリア戦では、『AGAIN 1966』(北朝鮮がイタリアを下してベスト8になった年)、スペイン戦では『PRIDE OF ASIA』、ドイツ戦では『クム☆ウン イルオチンダ(夢☆は 叶う』でした。夢は叶うは決勝への進出という夢ばかりでなく、特別にハングルで表示し、北朝鮮の人々への南北統一の夢も叶うというメッセージだったそうです。平壌でもTV観戦していて、「同族、同胞のチームが勝ち進んだことを喜ぶのは当然」というのが市民らの一般的な感想だったとも報道されています。そんなタイミングでの土曜日の銃撃事件だったので、韓国国民には実は大変なショックだったようです。事件の発端になった北朝鮮の漁船が獲っているワタリガニは韓国に輸出されて、外貨獲得に貢献しているというのも皮肉な南北関係の一面ですが。
私はイタリア戦で1点のビハインドを背負いながら、後半韓国選手が攻め込んでは跳ね返され、シュートを打ってはクリアーされていた時、MBCのチャ・ブンクン元監督が語った言葉。
『アンデド、アンデド ヘヤデヨ (だめでも、だめでも しなくては)』
が忘れられません。献身的なひたむきな攻撃の繰り返しの後、終了間際に韓国はとうとう同点に追いつきます。そして延長戦でアン・ジョンファンが決勝ゴールを決めました。彼は前半のPKという絶好の好機を逸し、心の中で泣きながら戦っていたそうです。ダメだと簡単に諦めないで、挑戦しつづければいつか結果が出るということを教えられたような気がしました。
一生忘れないと思います。韓日共催ワールドカップ・サッカーを韓国で体験したこと。
長い長い特別号でしたが、KOREA REPORT (W杯特別号)を終わります。
来月またお話しましょう。ふー疲れた。
ソウルより 蒲谷敏彦