蒲谷敏彦KOREA REPORT  9月増刊号 

KOREA REPORT (9月増刊号)

――― カードセクションは忙しい ―――

 

 天高く馬肥える秋。

韓国でも同じように、天高馬肥(チョンコ マピ)と表現するようです。

きっと中国からやって来たんでしょうね。(モンゴルかなぁ)

 


米軍基地の鉄条網をバックに、夏の終わりを告げるべく、

ムグンファ(むくげ)が最後の薄い赤紫の花を開いています。

コチュカル(唐辛子粉)にするために、真っ赤になった

取り入れたばかりの生唐辛子が道端に干されています。

アパートの近くの龍山家族公園では、婚礼の秋のシーズンが始まり、

公園名物の新郎・新婦のアルバム前撮りが華やかに

あちこちで繰り広げられています。

どのカップルも少し恥ずかしそうに、とっても幸せそうに

ファインダーを見つめています。


秋の夜長にはつい、感傷に耽って文章を書いてみたくなりませんか?

そんなことで、私もKOREA REPORT (9月増刊号)--カードセクションは忙しい--

を書いています。

 

去る土曜日の夕刻、2002南北統一蹴球競技がソウルワールドカップ競技場で

開催されました。北朝鮮と韓国が9年ぶりにサッカー対決をしました。

日本では93年ドーハの悲劇で有名なW杯アジア予選で、南北対決があり、

3−0で勝った韓国が、2−2でイラクと引き分けた日本を

抑えてアメリカ・W杯に進出しました。

 

さて、久しぶりの南北対決はどんな試合になるのか? 

ソウルの観客はどう反応するのか?

スタジアムの警備は? 映画のようにスパイは来るのか?

興味津々で出かけてきました。

 

試合開始の2時間前に競技場に着きました。

地下鉄駅構内からダフ屋のおじさんがチケットを売っています。

どうも売れ行きが悪いようで、もう

『ウォンカ! ウォンカ!(原価、原価)』

と言っています。

 

紙で出来た太極旗、半島旗も配っています。

太極旗は一時持ち込み禁止になっていて、持っていた人は押収されたとか。

その後、急遽OKになって太極旗は堂々と振られていましたが。

 

従来韓国内では北朝鮮の国旗を作ったり持っていることは

違法で、今回の南北統一蹴球競技のために2枚新調したとか。今月末から

始まる釜山アジア大会のために北朝鮮旗の大量生産を開始したとか。

誠しやかな噂がたっていますが、韓国旗の持ち込み禁止は

どうも不可解でした。北朝鮮に遠慮して、半島旗で統一しようと

したのでしょうか?


そんな騒ぎもあったそうですが、何も知らない私たちは太極旗と

白地に水色で竹島(韓国では独島)がしっかり描いてある半島旗も

持ってゲートに向かいました。W杯の時で慣れていたので、

気分の昂揚もなくあっさり金属探知機のゲートを通りました。

それでもソウルワールドカップスタジアムに入るのは初めてです。

サッカー専用スタジアムですから、グラウンドの大きさに比べて

スタンドの大きさが異様に大きい感じがします。

でもゲームは良く見えそうです。

 

私達の席は東のゴール裏でした。それぞれの観覧席には

なにやら画用紙大の紙が1枚づつ置いてあります。

裏は出来そこないの2003年のカレンダーの一部

(なおかつ、12月23日は天皇誕生日とある。日本のカレンダー!どうして?

韓国で印刷している? それとも不良品が韓国に古紙で売られた?

2003年日本カレンダーの謎。調査すると面白いかも。

調査しないけど。)のようですが、表は白か黒に全面塗られています。

 

これがあのカードセクション(人文字;KOREA REPORT

--W杯の残したもの--参照)のカードだったのです。

今夜の応援はかの有名な赤い悪魔団の公式応援ではなく、

有志による個人的応援だそうで、カードセクションも私たちのような

一般客で埋まっていくようでした。

だ、大丈夫かぁ?


ダフ屋のおじさんの読み通り、観客席は試合開始30分前になっても

一杯になりません。所々空いています。オマケに全席指定席にも

係わらず、違う席で居座ったまま動かないご老人や、

あっちの方が見やすそうだと勝手にどっか行ってしまうおじさんや、

アイスクリーム舐めてる子供達が...

担当の人が、カードは絶対動かしちゃダメ。

文字が出来なくなっちゃうから。

と言うんだけど...

 

グラウンドでは、韓国チームが白のユニフォームで早くもウォーミング

アップしています。

後ろから黄色い声援が上がります。

チャ髪のイー・チャンスが走ってきたようです。

随分遅れて北朝鮮チームがウォーミングアップを開始しました。

赤のユニフォームに白パンツで一糸乱れず四角くなって走っています。

(さすがにチャ髪はいません。)

韓国チームの丸いバラバラな動きと好対照です。

 

試合着に両国選手が着替えて入場。半島旗の前に整列します。

開会式は南側から、この試合の提案者である朴元大統領の

娘で現国会議員が歓迎のご挨拶。

『(南北統一の)クムウン イルオチムニダ! (夢は叶います!)』

北側の答礼は、今回の訪韓団団長(北朝鮮サッカー協会会長/貿易相)。

『ソウルシミンドリ、チョーンマル パンガッスムニダ 

(ソウル市民の皆さん、本当に お会いできて嬉しいです)』

さすがに演説は一番迫力があった。

そして、年末の韓国大統領選挙に出馬表明した韓国サッカー協会会長の

鄭夢準(チョン・モンジュン)議員のご挨拶。

『暖かく、北のチームを迎えよう。両国分け隔てなく応援してください』

まずは友好ムード満点というところか。

 

普通の国際Aマッチだとここで両国国歌の斉唱となるところですが、

今晩は微妙な南北の親善試合ですから、朝鮮民謡の『アリラン』の斉唱です。

 

アリラン アリラン アラリヨ

アリラン峠を 越えてゆく

私を捨てて 去りゆく人よ

十里もゆけずに 痛む足

 

アリラン アリラン アラリヨ

アリラン峠を 越えてゆく

晴れた夜空に 星がこぼれて

溢れる涙に 曇る胸

 

男が故郷に愛する女を置いて旅立つ歌です。

アリランは反日抵抗歌としても歌われました。

(反日分子となって家を離れる兄を想う妹の歌として)

カラオケでアリランを唄ってと、韓国人にお願いしても

断られることがあります。

『おまえ、アリランの本当の意味知ってんのかよ?』

そんな目で見られることがあります。

 

北の選手も南の選手も口ずさんでいます。スタジアムも

アリランの大合唱です。韓国旗も北朝鮮旗もなく、

それぞれの国歌の代わりにアリランを皆で歌って...

 

キックオフのホイッスルと共に

『カード!』

早速カードセクションの人文字お出ましのようです。

でも、なんだか判らない人は揚げなかったり、

一生懸命お目当ての選手を捜していたりで

全員一斉は不発のままで、カードを下げてしまいました。

 

試合の方は、韓国の貫禄勝ちかと思われましたが

W杯メンバーの半分は入替で、戦力大幅ダウン。

ヒディング前監督の後を継いだパク・ハンソ監督は、

今日は絶対負けられないデビュー試合となり、

なおかつ、そのヒディング前監督がベンチに入って、

観衆に挨拶(観客の拍手が一番大きかった。)

するなど、やり難いことこの上ないという、

可哀相な状況でした。

 

(オマケに釜山アジア大会までは正式契約でなく、

無給で監督をしているらしい。一方ヒディング元監督は

CM放映だけで6億円の実入りがあったらしい。)

 

また、韓国選手はといえばW杯のときの

イタリア人やスペイン人相手ではなく、

同じ民族、かつ北朝鮮との親善試合とあって、

以前の強烈なタックルや違反すれすれのプレーも

出来ない、遠慮?している有様です。

これでは勝てる試合も勝てない。

 

一方、これまでベールに包まれていた北朝鮮のサッカーは、

体力も根性も韓国に勝るとも劣らず、TVで研究したのか、

世界レベルの戦術で、韓国を翻弄するしまつ。

身長や体格は韓国チームの方が上ですが、

スピードと粘りは北朝鮮という感じで

決定的なシュートチャンスは、韓国と五分でした。

 

そんなグラウンドの熱くて厳しいゲームとは別に、

カードセクションのスタンドでは、若い女性たちが目当ての選手が

見えたの見えないの、選手の母や父がスタンドの大モニターに

映ったのとうるさいうるさい。見かねた男友達が

『キョンギ バ!(競技見ろよ)』

と怒っている。


でも、そんなに思ってる私たちも、

『テーハンミング! チャチャチャ チャンチャン』

『オー ピス コリア〜 オー ピス コリア〜 (おー必勝コリア)』

または、今回は特別にテーハンミング(大韓民国)の代わりに

『トーンイル チュック!(統一蹴球) チャチャチャ チャンチャン』

とやったり、カードを揚げたり、パド(波;ウェーブ)をやったり、

韓国選手だけでなく北朝鮮選手のプレーにも拍手して、

立ったり座ったり、大声だして忙しいことこの上ない。

 

あっという間に後半も仲良く0−0で終わってしまいました。

観客も非常に友好的、韓国の惜しいシュートには

席を立って悔しがりはしますが、目を三角にして応援する訳ではなく、

試合を楽しむ余裕を見せていました。

やはりW杯でチャシムカン(自信感)をすっかり身に付けたのでしょうか?

 

そして、私達が否応なく関与した大事なカードセクションの

人文字は完全な姿を現すことなく終わったのでした。

不完全(たぶん)に表示されたそのメッセージは、

『トンイル チュック セゲェ チェカン (統一 蹴球 世界 最強)』

でした。人文字と同じようにこれも右往左往して

オンジェ クムウン イルオチムニカ? (いつ夢は叶うのか)

大きな疑問符が付くのでした。

 

今月末からアジア大会が釜山で始まります。

南北蹴球対決はその時、本気で決戦をし、

本気で応援されるでしょう。

日本チームがどのように絡んでゆくのか?

大変楽しみなゲームになりそうですね。

夜も更けてまいりました。

それではまた、次回お話しましょう。

ソウルより 蒲谷敏

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