蒲谷敏彦KOREA REPORT 6月号  

KOREA REPORT (6月号)

――― ソウルな女性達 ―――

第5話 ケオナ(桂英花)

 

 ご年配の方には『だっこちゃん』、もう少しお若い方には『リカちゃん』人形で有名な玩具メーカーのタカラが犬の鳴き声を翻訳?する『バウリンガル』なるおもちゃを発売したそうですね。大変な人気で、半年で30万個が売れたんだそうで、サンクトペテルブルグを訪問した小泉首相は犬好きのプーチン大統領のお土産にされました。

こんなのあったらいいなぁを実現する韓国では、この犬語翻訳機が早速活用されています。4月に発生した放火殺人事件の被害者が飼っていた犬に、この『バウリンガル』を装着して容疑者に面会させたそうです。もちろん確かな証言は得られなかったようですが...


2000年 大連での結婚式

 ソウルは寒い寒い(チュオヨ)と言っていたら、もう暑い暑い(トォヨ)になってしまいました。初夏というより真夏のような季節になりました。皆様いかがお過ごしですか?

今月も元気な楽しい韓国のお話をお送りしましょう。

 

 先月末、当社天安工場にモンゴル国から研修生が5名やってきました。3年間工場で溶接や製品組立をしてもらいます。皆韓国語は、アンニョン ハセヨ(こんにちは)くらいしか話せません。そんなモンゴル人を前に羅部長はいきなり日本語で挨拶を始めました。韓国語が通じないと思うと自然に日本語になるようです。

 

36歳のパトウソウルさんは、故郷に奥さんと15歳になる娘さんを残して韓国に出稼ぎです。彼はかなり英語が話せるようですが、残念ながら私を含めて工場には英語の達者な社員がいませんから、お互い慣れるまでは身振り手振りでのコミュニケーションになりそうです。

 

モンゴルといえば、ジンギスカンで有名な草原と遊牧の民です。人口は230万人余りで、国土は日本の約4倍あります。大相撲では朝青龍がモンゴル出身で横綱になり、日本とも随分身近な国になりましたね。日本語と韓国語とモンゴル語は、アルタイル語系で主語+目的語+述語の語順は共通していますし、赤ちゃんのお尻に出来る蒙古斑と呼ばれる青あざも一緒です。

 

ですから、顔だけ見てるとその辺に居そうな韓国の人だし、日本の田舎にも居そうな人に見えるんですけど...

『作業服のサイズ、MLXL?』

『靴の大きさは?』

明日からの仕事に備えて服や靴の用意をしようと、総務担当者が尋ねますがなにせ言葉が通じないので、靴は今履いている運動靴を脱がせて見ています。

 

JP29って日本は、センチですか?』

現(ヒョン)代理がパトウソウルさんのシューズを見ながら質問してきます。韓国は靴のサイズはミリで表示しますから、日本の25.5センチは255ミリなんですが、29といえば29センチに決まっています。それにしても身長は私と変わらないくらいなのに、足は29センチ!少しびっくりです。

なるほど朝青龍の国です。

 

挨拶はアロハのように一日中『サインバイノー』、ありがとうは『バイルラー』と言うらしいことは判ったのですが、韓国語もままならない私は、またまたモンゴル語にも悩まされそうです。

 

『中国の赤ちゃんは、蒙古斑があるのもないのもいるよ。』

『肉じゃがは中国にもある。お母さんがよく作ってくれた。』

『梅干はないよ。』

 

時は流れ、また夏が来て...

4月の日韓サッカーの雪辱戦だと気合を入れて乗り込んだ東京での日韓サッカーは、10できっちり韓国が勝ち、ゴールを決めたアン・ジョンファンは髪を切って4週間の兵役義務に就く。

 


99年 大連動物園でデートしてた頃

一年前の韓日W杯サッカーの開会式が行われたソウルW杯競技場にはW杯モール(商店街)と仏のカルフール(スーパーマケット)、シネマコンプレックス(集合映画館)が出来ました。日本のサッカー競技場は赤字で大変だとか。韓国ではしっかり再利用しています。地下鉄駅がすぐ近くて便利なので大変な人出です。買いもしないのに大きな買い物カート(ほとんど商品の代わりに子供を乗せている)を皆押してくるので足の踏み場が無いというより、歩く空間が無いような状態です。後ろからカートをぶつけられたと家内が文句言ってます。

 

スタジアムの観覧席の下に造られたカルフールを出て、2階のモールの靴売場でひょっこり、ケオナさんとピョンさん夫妻に会いました。お姑さんの誕生日お祝いにサンダルを買ってあげるんだそうです。

 

28歳になるケオナ(桂英花をハングル読みするとこうなるらしい)さんは中国チチハル生まれの朝鮮族で、大連でOLをしていました。5つ年上のピョン(辺)さんはソウル生まれで、東京で日本料理の修業をして(随分もてたという話。日本人の恋人?が二人も居たとか。)、大連で今度は韓国料理店で働いていたそうです。韓国語の出来ない彼女と中国語の出来ない彼は通訳の男友達と一緒にデートを重ねて(KOREA REPORT 20019月号参照)、そして結婚することにしたのですが、それからが大変でした。


03年      日式料理店『親月』にてもうすぐ3人になる二人


国際結婚と彼女の韓国への出国許可の為に、北京に二人で10回以上通ったそうです。役所の係官は書類不備だと返すばかりでどうしろとも言わないそうで、悔しい思いもしたそうですが、それも二人の愛を確かめてくれたのかなぁなんて、お惚気が言えるようになりました。(でも随分確かめ合った愛です。)

 

200012月末に大連で結婚式を挙げ、翌月2日にソウルにやってきました。3月に雪岳山(ソラクサン)に新婚旅行に行きました。例年に無い積雪と強風で新郎の運転する車は山道でスピンをして、新婦は泣いて新郎はそれを可愛いと言った...

また惚気られました。

 

『赤じそで赤く染めるんですか?

韓国には梅はあるけど、しそはないです。』

ピョンさんは現在ソウル市松波区で『親月』という日本料理店を開いています。梅干の美味しい作り方が知りたいというので、家内がNHKの『きょうの料理』のテキストをあげました。ケオナさんは漢字が読めるので、なんとなく日本語が判るようです。肉じゃがの写真を懐かしそうに見つめていました。

 

『中国では子供の運動会に家族が行ったりしないよ。』

『海苔巻(キムパプ)巻いて、卵焼き(ケランマリ)焼いて、みんなで行きましたよ、韓国では。』

結婚して3年目犬を飼っていたら子供は出来ないとお姑さんに言われて、犬を手放したらすぐに子供が宿って2ヶ月目です。朝鮮族とはいえキムチはあまり好きでなかったのに、妊娠したとたんに無性にキムチが食べたくなったというケオナさん。恐るべし韓国人DNA

 

まだ生まれてもいないのに、ピョンさんは記録撮影するんだとソニーのデジタル・ハンディーカムを買ったし、これからは韓国語より中国語か日本語が良い、子供のために中国に住むか、日本に住むか? もう両親の教育談義も始まっています。美味しい鯛のアラ炊きが食べ続けられるように、もう少しお二人にはソウルにいてもらいたいと思うソウル駐在員でした。


今回はここまで、また楽しいお話しましょう。

               ソウルより 蒲谷敏彦

             
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