蒲谷敏彦KOREA REPORT 7月号  

KOREA REPORT (7月号)

―― キムチとミサイル (後編) ――


 BS2で放映されたダンス映画『サルサ!』のなかで、キューバ人になりたいと憧れている主人公のフランス人青年が、友人でノーテンキなキューバ人に、

『どうして君はいつもそんなにハッピーなんだ?』

と質問する。

『キューバ人になりたかったら、苦しみは笑顔で隠せ』

とそのキューバ人は答えるのだが、名言ではなかろうか。

私は考えた。

『韓国人になりたかったら、恐怖はキムチで隠せ』

 

ソウルな女性達第2号のボミ(韓国人のご両親は京都にいらっしゃる逆女子留学生)さんが、625(朝鮮戦争勃発の日)の夜、ボーイフレンドを連れて我が家にやってきました。

『北朝鮮とこんなに緊張しているのに、韓国人のノーテンキには呆れるよ』


            カーネルとボミ

 

彼はオクラホマ生まれの21歳で、昨年9月に議政府(ウイジョンブ;ソウルの北 38度線近くの街)のミサイル部隊に配属された米兵です。今日は誕生日休暇で彼女とデートしているみたいです。日頃はミサイルの発射を担当しているらしい。

 

オクラホマで有名なものは? の質問にしばらく考えて、小麦と答えた彼はシャイで遠慮深くて(韓国語にも英語にも遠慮という言葉そのものはないんだそうで、奥ゆかしい日本文化を表す言葉のひとつですね。でも近頃その日本の『遠慮』も滅び行くようで...)、まだ初々しいチョンガーそのものでした。私達はフォークダンスのオクラホマミキサーを連想したんですが、彼は知らないと言います。本当にオクラホマ生まれかと疑ったのでした。

 

ボミさんとは教会で知り合ったんだそうで、中国人と韓国人と日本人は皆同じに見えるし、中国語も韓国語も日本語も皆同じに(意味も判らず)聞こえるんだそうです。日本語で話す私達の顔をじっと見ていました。ボミさんは英語ぺらぺらなので通訳をしてもらいながら、いろいろ訊いてみました。

 

韓国の印象は?

アジョシ(おじさん)とアジュマ(おばさん)、やさしい。

家でもコーク(紙コップの大きさを言っているらしい。確かに米国のSサイズがこっちの大くらいで)でも韓国は何でも小さい。(日本はもっと小さいと思うけど)

韓国の食べ物は?

キムチ大嫌い。(キムチ食うくらいなら糞を食うとまで) 刺身も嫌い。辛いの嫌い。(食べるものない)

まあ、米軍内は米国だから問題ないと思うけど。彼は食べ物にこだわり?があって、ハムチーズ・ピザしか食べないそうな。

 

彼は漢字に興味があって、何だか呪文みたいでカッコいいんだそうです。紙に裁縫箱!と書いてくれと言います。彼の名前(カーネル・M・ジャスティン)も漢字で、加亜根留 邪須天と書いてあげました。ついでに蒲谷敏彦も。ミサイルに書くのか?

 

先日板門店を見に行った彼は、北朝鮮警備兵を写真に撮ったんだそうで、ボミさんに写真を見せて、

『お前の敵はこれだ!』

と言うんだそうですが、ボミさんも私達もそれはそうかも知れないけど、何だか違うよねぇって感じです。

 

彼にはお兄さんと妹さんが一人づついて、お兄さんも米軍兵士で今あのイラクに駐留しているんだそうです。フセイン元大統領でも捜しているんでしょうか? 詳しい話を聞いてみたいけど、兄弟であまり話もしないらしい。残念。

 

猫舌の彼は熱いお茶が苦手で、もう帰らなくてはと彼女と一緒にソウルの夜に消えて行きました。

イラクの兄と韓国の弟。兄の戦争と弟の恐怖。恐怖はキムチに隠して、裁縫箱や邪須天、ましてや蒲谷敏彦と書いたミサイルが北に向いて飛んで行かないように祈るのでした。

そして、キムチの大嫌いな彼とキムチなしでは生きて行けない彼女の恋の成就も一緒にお祈りしましょう。

ではまた、次回お話しましょう。

              ソウルより 蒲谷敏彦

―― おまけ(紙上お中元)  水キムチのレシピ ―― 

先日韓国人のアジュマ(おばさん)が3人昼間にやってきて、ワイワイ言いながら我が家で本場の水キムチを作ってくれました。お中元代わりに皆様にご紹介します。


 夏になるとふんだんに出回る大根菜やきゅうり他で作る庶民的なキムチです。塩辛を加えず、すりおろした赤唐辛子ともち米糊や小麦粉糊などを入れて漬けるので、青臭い臭いを除去してくれます。冷たく冷やすとなおすっきりした味になります。

 


韓国ビールと韓国海苔と自家製水キムチ


(材料) 大根菜 3束、きゅうり 2本、玉葱 1個、小麦粉 大さじ2、粗塩 1/4カップ、浅つき 1束、にんにく 1株半、しょうが 小1ヶ


(下ごしらえ) 大根菜はきれいに洗い、5cm長さに切りそろえる。きゅうりもたてに4つ切りにして、5cm長さに切りそろえる。玉葱は厚めに(2cmくらい)にスライス。浅つきは3cmくらいに切りそろえる。にんにくはみじん切り、しょうがは細かい千切りにする。

(作り方) 1.大根菜は水をきり、粗塩をまぶして2時間くらい置く。

2.水5カップを温め、小麦粉大さじ2杯を溶き、うすい糊を作る。

3.かめ(なければタッパーで可)に大根菜、きゅうり、玉葱、浅つきをまんべんなく入れ、にんにく、しょうがも散らす。

4.32を加える。

5.一晩は室温に置いて、次の朝から冷蔵庫で保管する。

6.次の朝から美味しくいただけます。

 

(ポイント) 我が家には赤唐辛子、青唐辛子がなかった(アジュマに唐辛子がないの!と言われたそうです。日本で醤油をきらせているような。)ので入れませんでしたが、赤唐辛子をすりおろして薬味にするとキムチの汁に甘味が出るそうです。青唐辛子は種つきのまま斜めに切って入れると、キムチの汁がヒリヒリした辛味になって、goodです。


この唐辛子を入れない水キムチはそれはそれで、古代のキムチを食するようでgoodでした。ただ、冷蔵庫の中がスゴイ臭いになるのでご注意ください。

それにも負けず是非お試しあれ!

 

以上レシピは家内監修でした。

         

             
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