2004 蒲谷敏彦のKOREA REPORT 旧正月号
KOREA REPORT (旧正月号)
―― KOREAN IN AUSTRALIA (前編) ――
セーヘ ポン マニ パドゥセヨ
(新年、福をたくさんお受けください。日本語の、明けましておめでとうございます にあたる。)
今年の旧正月は1月22日でした。いくら気が長い韓国人でも、もう新年の挨拶はしなくなりました。1ヶ月のご無沙汰でした。皆様ご健康でご多幸な新年を迎えられたことと思います。本年も、KOREA REPORTをよろしくお願い致します。
今年は新正月と旧正月が1月に重なって、それこそ盆と正月が一緒に来たようなめでたさでした。昨年から『書きあぐねている』私は1月下旬には書こう、末までにはどうにか、え〜い、旧正月号で書こう、などとドンドン先送りにしているうちに、旧暦の1月も半ばを過ぎてしまいました。ほんに筆不精でスミマセンでした。
先月末には、ソウル日本人学校の園児が韓国人に襲われて、大怪我をするという事件がありました。我が家のある東部二村洞(トンブ・イーチョンドン)では、肉屋の主人も果物屋のアジュマ(おばさん)も花屋のアジュシ(おじさん)も、
『とんだことで、どう謝ったら良いのか? 恐縮してます』
と、我が事のようにお見舞いをしてくれます。
ところが、韓国の私の勤務先では日本人学校の日の字も言いません。もっぱら、鳥インフルエンザやBSE(狂牛病)の話くらいで、こういう日本と韓国の微妙な話は、こちらが言い出さない限りしませんし、こちらがその話を振ってもちっとも乗ってきません。日韓合弁会社での長い経験に裏打ちされた、処世術なのでしょうか。そういえば、北朝鮮が攻めて来るような危ない話も決して話題にしません。するときは本当に今日から危ないので、蒲谷さんは明日の飛行機で帰国してください、というような時です。
それは実際‘94年7月9日北朝鮮の金日成主席が亡くなったとき、当社の社員達と地下街の食堂でテレビの緊急放送を観ながらこんな風に話ました。
『私達は明日から祖国を守るために軍隊に行くことになると思います、蒲谷さんは関係ないのですぐに日本に帰ってください。』
私は様子見でそのままソウルに残っていたし、その後大事(戦争!)もなく、無事に韓国勤務を終えて96年春に帰国したのでした。
ソウルは昨夜薄っすらと雪が降ったようで、日陰の路肩にその名残があるくらいでしたが、車で訪れた天安工場(チョナン・コンジャン)は雪景色の中でした。韓国の車も最近はほとんどがABS(スリップ防止ブレーキ)装備なので、工場の入り口の雪道でブレーキを踏むと、タイヤは回転を止めずにかれこれ廻りつづけます。対向車にぶつかりそうになって、冷や冷やしながら工場に到着すると、
『今日はこんなに雪が降ったので来ないかと思いましたよ』
『ソウルは全然積もってなかったですよ。危なそうだったら、そう電話してくださいよ。人が悪いなあ...』
南工場長とこんな話を交わして、お昼ご飯は久しぶりに鴨肉料理屋に出かけることにしました。
『大丈夫?』
『大丈夫でしょう。死にはしませんよ』
天安は梨やブドウでも有名ですが、豚や鶏などの畜産でも有名な酪農地域です。昨年12月には韓国初の鳥インフルエンザがここ天安で発生し、8万羽の鶏が埋められました。そんなこんなで鴨も危なそうなので12月から寄り付いていなかった、工場近くの鴨鍋屋さんに様子を見に行くことになりました。(わざわざ行かなくてもと思うけど)
案の定、鴨肉専門店はお客さんが全く居ません。女主人とアジュマが手持ち無沙汰にピーナッツなんか食べてます。お久しぶりねぇ〜、どうして来てくれないのよ? なんてアジュマに声掛けられて、剥いてくれた殻付き南京豆や胡桃、栗を頂きます。今日、2月5日は旧暦で1月15日、新年初の満月の日で、テ・ポルン(意味不明)といって豆や栗など硬いものを食べると良いらしい。
ソッ・トックンというのは、大釜の蓋のことで鋳物で出来ています。昔はチジミといわれる韓国風お好み焼きもこの蓋を裏返しにして、その上で焼いたらしい。今はそんな店をみることは少ないですが、この蓋をカセットコンロの上にそのまま置いて、豚肉や牛肉の焼き肉をする店は多いようです。この鴨肉屋でもカセットコンロの周りには、キムチや野菜のおまけのパンジャン(おかず)が並べられ、ソッ・トックンの上で油を滴らせた鴨肉がジュウジュウと焼かれます。辛子味噌をつけて胡麻の葉やサンチェの葉で包んで(お好みでニンニクのスライスも)食べるとジューシ−な鴨肉の甘味が口に広がって、それはもう天国です。
こんな時期にわざわざ来てくれた、それも少ないお客様ですから、料理を運ぶアジュマから主人まで出てきて、サービス満点です。鴨肉は大判振る舞い、少し古いキムチも出してきて、皆でそれも焼いて食べます。なんだか、在庫一掃セールみたいです。
『鳥インフルエンザは大丈夫ですか?』
いじわるな質問をしてみたら、
『この鴨はこの店専用の農場で育ててるし、昨年から私達は2日に一度は食べてるよ。全然大丈夫よ〜』
と女主人が応えたけど、明日発病するかもね、とは冗談でも言えませんでした。
焼肉でたらふく鴨を食べた後の激辛鴨鍋(ひりつくような赤唐辛子味の中に鴨の甘さが感じられたらツウですね)がこの店の自慢なんですが、いつもと何か違います。いつもはジャガイモ(カムジャ)やネギ、人参と肉を取った残りの鴨のアラが入ってるんですが、今日はジャガイモもネギも無くて、鴨のアラばかりです。サービスなのか、本当に在庫整理なのか? まあ、文句言わずに美味しく頂きましょう。
Dear 渡部さん
お久しぶりです。私達は旧正月休みを利用して、オーストラリアのウィット・サンデイ島にクルージングに来ています。サングラスと日焼け止めは日常になりましたが、毎日2回の無線連絡はまだ冷や汗たらたらです。でも、こうしてこの世のものとは思われないホワイトヘブンの白い浜辺に寝そべって、冷たいカクテルなんか飲んでると、鳥インフルエンザもイラクの自衛隊さんにもゴメンなさいです。またご連絡します。
Sincerely, T.Butani in Austlalia
通常は1時間あまりで到着する仁川国際空港行きのリムジンバスは(旧正月の)年末の大渋滞に巻き込まれて、漢江の川岸で動けなくなりました。ここですよ、ここ。漢江の南岸道路のここで、12月31日の(これは新暦の。ややこしい)大晦日に車を走らせてると、気づかない内に自動で車の写真を撮ってくれたそうで、ご丁寧にナンバープレートの拡大写真(助手席はプライバシー保護?のために消してある。細かい配慮ありがとう)まで添えてあって、制限速度80Kmのところ18Kmオーバーだそうです。
この違反事実通知書が送られてきたのは旧正月も明けた2月6日のことでしたので、その日はそんなこととは露知らず、日本から年末にわざわざ来られた知人と日式居酒屋に出かけて、NHKの紅白歌合戦を見ながら年越し蕎麦を食べました。(このお店は9時以降の蕎麦は無料になるらしく、30分前に頂いた私達はお勘定の時それを聞きました。人が悪い! 今年は絶対無料で食べるぞ、覚えていたら)
集合時間に10分あまり送れて、団体受け付けカウンターに行くと、OKツアー(大橋巨泉の旅行会社か? いいえ巨泉さんには全然関係ないソウルの旅行会社です)ガイドのMis申は何事も無かったように、団体旅行契約書へサインをさせて、もう少し待っててください、と言います。まだ遅れてくるお客さんがいるようです。
その後やっと全員(団体旅行客は私達二人を含めて15人)揃ったので、航空券を渡されて簡単な説明を受け、荷物を預けに大韓航空のカウンターに行きます。ここ韓国でも言語障害者の私達はガイドさんの近くにいつも居ようと一生懸命、トランクを引こずって追いかけるのですが、ガイドが速いのか、韓国人客が速いのか、いつの間にか私達はいつも最後尾になるのでした。韓国人とつばぜり合いをしながら、荷物を預け、セキュリティー・チェック(靴まで脱がせる警戒ぶり)を抜け、出国審査を(韓国滞在ビザが後10日しかないよ、と注意された。ええ、また帰ってきて延長するんですよ)通り、免税品店街で時間をつぶし、夕食もしていないので、韓国食堂で韓式お粥と韓式水餃子を食べてると、空港の外は大雪。まるでスキー場の人工降雪機をフル稼働させているよう。皆外の雪を呆れたように見ています。
案の定、午後8時50分発ブリスベーン行き大韓航空813便は、天候不順のためかれこれ駐機場で待った上に、さあ飛び立つとなってからも、翼の雪を溶かしますとアナウンスしたきり、なかなか動きません。どうやって雪を溶かすんだ? 機体にヒーターでも付いてるのか? 主翼の上には雪が砂丘のしじまのようになっています。ハシゴ車のような融雪ゴンドラからお湯が噴出され、翼の雪を吹き飛ばしてゆきます。そしてやっと、2時間10分遅れで、飛行機は無事極寒の北半球から夏の南半球に向けて飛び立ったのでした。
オーストラリア団体旅行ご一行様
大韓航空の世界機内食コンテスト2年連続優勝のビビンパも今ではもう、珍しくもないのですがそれでも何か食べておかないと、深夜に空腹では堪りません。前の席の韓国男性がふんぞり返ってシートを倒したままなので、エコノミー席の狭さでは食べ難いことこの上ありません。よほど抗議をしようと思っていると、隣の韓国人の奥様が注意してくれました。昔、シンガポールエアーでカナダのバンクーバーに行ったとき前の席にインド人が座っていて、高いターバンがじゃまになって機内映画が全く見えなかったのを唐突に思い出しました。
機内で時間つぶしにオーストラリア旅行ガイド書を読んでると、しょっぱなに編集室からのメッセージで、
『シドニー/ゴールド・コースト7日間というようなパック旅行は、できるだけ敬遠したほうがいいだろう。』
と書いてあります。私達はその無謀で禁断のオーストラリア・韓式団体パック旅行に参加したのでした。それはどう無謀で禁断なのか? 面白おかしく散々だった旧正月の韓国の人々とのオーストラリア旅行、おいおいお話してゆきましょう。ご想像のとおり、ウィット・サンデイ島へのクルージングもホワイトヘブンの砂浜も夢のまた夢でした...トホホ。
もちろん明日につづく・・・
ソウルより 蒲谷敏彦
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