2004 蒲谷敏KOREA REPORT 4月号   

KOREA REPORT (4月号)

―― KOREAN IN AUSTRALIA (後編その3) ――

 

 大相撲では朝青龍が2場所連続全勝優勝し、ヤンキースの松井秀喜は東京ドームで大ホームランを打つ活躍、メッツの松井稼頭央は開幕戦先頭打者初球ホームランだし、愛媛県の済美高校は初出場初優勝でした。スポーツ界は嬉しい楽しい話題が多いのですが、その他のニュース(ソウルでも回転扉はおっかなびっくりで入ってます)は暗いですね。と思っていたら、もう4月になりました。ソウルの桜も花吹雪に変わりつつあります。

 

先日、国立墓地に満開の桜を見に行きました。整然と並ぶ将兵の墓前に咲く、黄色いレンギョウ、白い木蓮やピンクの桜の花がきれいでした。死んで花見が咲くものか。無言の墓標は戦後?のイラク紛争をどうみているのでしょうか?

 新しい年度が始まる4月、皆様いかがお過ごしでしょうか?

 


        国立墓地の桜の前で記念写真を撮る家族

 

 NHKのBS放送で大人気だった、韓国ドラマ『冬のソナタ』がNHK地上波放送で再放映されてるとか。本もベストセラーを続けているそうで、韓国駐在日本人としては日本で韓国のことが何にしても(キムチでもBOAでも)人気だと何だか嬉しいものです。

 

古い話で恐縮ですが、3月の初めには観測史上初だとかいう3月にしては大雪が降って、韓国中部地方では高速道路が麻痺し、家屋やビニールハウスが半壊全壊して大変でした。が、風が吹けば桶屋が儲かるじゃないですが、雪が降ったらスキーができる! と、韓国人と今年初めてのスキー旅行に行くことになりました。

 

大雪の10日後(大統領弾劾の日)で且つそれからずいぶん暖かくなったので、大丈夫かなあ?と思って出かけた龍平(ヨンピョン)スキー場は、『冬のソナタ』のロケ地のひとつで日本からの『冬のソナタ・ツアー』にも入っている大人気スポットでした。ドラゴン・ピークと呼ばれる山上には、ドラマでヒロインが心ならずも初恋の人に似ている男性と一夜を明かした鐘楼があります。

 


歓迎!冬のソナタ撮影地ツアーご一行様(於ドラゴン・ピーク)

 

社内の有志14人が金曜日の真夜中に三々五々集まって、焼酎でぐっすり眠れるようにナイト・キャップを散々飲んで、翌朝はお約束の辛ラーメンとキムチで身体の中から起床ラッパを吹いて(火を噴くように)、貸しスキーを履いてゲレンデに出ると想像どおり、春のスキー場は人工雪も溶けて小川のせせらぎでした。

 

スキー場でみぞれ氷にスキーの板をとられそうになったり、雪の下から覗いていた石ころに躓きそうになって、おまけにゲレンデに掘られた溝を雪解け水が流れてゆく小川をスキー板で渡るのでした。こけると痛そうだし、それ以上に濡れるのはイヤなので転ばないように無理に滑ってると体全体が引きつりそうです。

 

苦痛なスキーは午後3時に切り上げて、後は夕食を食べてソウルに帰るだけかと、着替えてバンガローのリビングに出てみると、皆が花札で盛り上がってます。

『蒲谷さん、荷物どうしたんですかあ?』

『今から帰るんじゃないの?』

『明日の朝、お風呂に入ってそれから帰るんですよ』

一泊二日と聞いて来たけど、金曜日の深夜到着の夜は一泊に入れないのね。はあっ、着替えのパンツももうないけど...

 

それから、高速に乗って東海(韓国ではトンヘといい、日本では日本海という)を臨む、注文津港の水産市場の食堂で活きのいい刺身料理と海鮮鍋を食べて、酔い覚ましにうろついた市場の屋台で食べたタッセウ(頭が鶏のトサカに似ている小エビ。韓国南部ではポリセウ(麦海老)ともいうらしい)は14匹焼いて1万W(約千円)と安いのに、脳みそがカニのミソ並に美味しくて、焼酎と一緒にお代わりしてしまいした。いい気持ちになって帰ったバンガローでは、若者達の花札遊びの嬌声と、韓国人にしては妙に酒が弱かったのか、トイレで吐き続ける嗚咽と、明日の営業目指して今日溶けた雪を補充する人工降雪機の騒音を子守唄にするほどでもなく、ぐっすり眠りこけたのでした。

 


 

さて、本当に古い話で恐縮ですが旧正月の豪州旅行最終話です。これが終わらないと次のKOREA REPORTになりません(と、勝手に作者が思ってる)のでほとほと食傷気味でしょうが、もう少しだけお付き合いください。

 

 明日はこの旅行のハイライト、世界3大美港シドニー港周航のクルーズ船でランチをとります。この船は韓国人だけでなく、中国人も日本人も、もしかしたらベトナム人も乗る、アジア観光客専用の船です。皆さん恥かしくない言動と正装でお願いします。一番いい服を着て来てください。

 

と、冗談とも皮肉ともつかない男性現地ガイドの説明が昨夜あったので、韓国人ツアー一行は4日目の朝、一番いい夏服に着替えて集合しました。大型バスまでトランクをごろごろ引っ張って(どうしてボーイが運んでくれないと文句たらたらで)乗り込みました。団体旅行客の部屋の冷蔵庫には鍵がかかってるくらいだから、トランクなんか運んでくれない、クリントン前大統領が泊まったというホテルチェーンでした。

 

 シドニー市街南東、車で30分というボンダイ・ビーチにバスは停まり、裸足になって朝の光の中白い砂浜をまたまた歩きます。トップレスの女性が闊歩してるという噂なのですが、ちっとも現れません。犬を連れたご老人や家族連ればかりです。1Kmにわたる砂浜の両端に妙齢のトップレス嬢は出没するらしいと後で聞きました。韓国の海水浴場に比べると、ここには刺身屋は無いけど無料のシャワーと更衣室があり、紫外線が強いので、腕時計の表示板の蛍光塗料が夜になるとよく光るそうです。

 

昼食クルーズまでには時間があるので、とっておきの見学をご用意しました。と大型バスは工業団地に乗り付けて、男性ガイドがとある工場に入ってゆきました。

『急に来られても困る、ここは製造するところで売るところじゃない、帰ってくれ』

『そう言わずにせっかく来たんですから、少し見せてくれるだけでいいんですから』

どうも連絡不行き届きなようで、工場の責任者と男性ガイドが言い争っています。じゃあいいです、私達が帰ろうとすると、話がまとまったのか、2階に上がれと言う。

 

韓国人7人でやっているというネイチャーズ・クィーンという会社は、豪州漢方薬の製造販売というところで、ロイヤルゼリーやプロポリス、サメの肝油のカプセルを売っているらしい。それぞれの効用を長々と説明して、子供相手にサンプルを飲ませたりしてるうちに、レジスターに売り子がスタンバイして、お金持ち夫妻や国民銀行家族は4ビンで6万円もするサメの肝油なんか買ってるし、テキサス奥様もいつのまにか、プロポリスの錠剤をしこたま買ってました。新婚耳鼻咽喉科のお医者さんが買えば本物かと思っていた私は、若いドクターがニヤニヤしながら決して買おうとしないのでやめました。なにしろ、その怪しさはサメの肝油の商品名がバイアグラに似せた、パワグラだったのですから。

 

それにしても、さっきの騒動は何だったのか? ここは売るところじゃないと言いながら、工場の2階展示場にはちゃんとレジスターがあって商品が整然と並べてあるのは一体どうしたことか? 土曜日なので社員は休みだけど、しっかりレジに2人売り子がいたのはなんなのか? 豪州人はきっちり休むので休日出勤は韓国人だけですと、訳の分からないこと言っていましたが、最初のあの言い争いは客を引き込む芝居だったとしたら、恐るべし在豪州韓国人商売といったところでしょうか。

 


シドニー・タワーとオペラ・ハウスとハーバーブリッジが一望に

 

オペラ・ハウスとハーバーブリッジを一同に望む丘の上でそれぞれ記念撮影をして、ポート・ジャクソンの入り口サウス・ヘッドで湾口を臨むと、先の大戦でははるばるここまで日本軍の特殊潜航艇が来たとは思えない、紺碧の海を白いヨットが単独航しているのでした。一昨日のブリスベーンでは、フィリピンから退却したマッカーサーが反撃に備えていたそうです。歴史ですねえ。

 

『今日はいい天気ですね』

お金持ち夫妻の旦那さんが岬の上で唐突に話し掛けてこられました。よく日本に旅行をされるそうで、日本語も少し出来ますと言われます。本当はこのお休みも日本旅行にしたかったのだが、どこも予約がいっぱいで止む無く豪州ツアーにしたそうです。止む無く豪州とは。またまたお金持ちは違うなあと思うのでした。

 

キムチを取りすぎるなといういつもの注意を受けて、乗り込んだキャプテン・クック・ランチ・クルーズ船は、中国人と韓国人と日本人でいっぱいで、アジア難民船のようです。席の取り合いからブッフェ形式料理の取り合いです。八宝菜、チンゲンサイの炒め物、中国風春巻きなどの中国料理にキムチが付いています。これまで豪州の韓国料理に辟易していたので、この豪州の中国料理には救われる気持ちでした。

 

船はアジア難民観光客を乗せてシドニー湾を廻って行きます。ハーバーブリッジの下をくぐり、オペラハウスの前を通り、湾内の小さな島を廻ります。天気の良い土曜日の午後、絶好のセーリング日和です。ディンギーやクルーザーが無数に出てきて、あちこちでヨット・レースを始めています。3階のデッキに上がると、煌めく波間、頬を撫でる夏の風、異国の街並みをバックに滑る白い帆のヨット達。久々に見るヨットの乱舞に心は開放され、陸に上がったヨットマンには至高の極みです。

 


        ランチ・クルーズ船から見るヨットの乱舞

 

ここで写真を撮らないとどこで写真を撮る、と一生懸命デジカメを海に向けてシャッターを切るのですが、それは他の韓国人も同じこと。アジョシー(おじさん)写真撮ってください、と声を掛けられて、独身アガシ(お嬢さん)や新婚医者夫婦、おまけに中国人まで他人のカメラでノリノリでポーズをとる人々を撮りつづけるのでした。お返しにと独身アガシが私達のカメラを持ったときには風が強くて、アガシの長〜い髪がカメラの前をゆ〜らゆ〜らと、それじゃレンズにかかってるんじゃない? と言う間もなく、やっぱり髪に隠れた記念写真が出来上がったのでした。

 


           だから、髪がレンズにかかってるって!

 

それから、韓国人経営の免税店に連れてゆかれ、一様免税店なのに、市価より10%くらい高くても韓国人のお店で買ってやってくださいよと言われて、プロポリス入りのワインや歯磨き粉、ブーメランのお土産を買わされました。旦那に羊皮のコートを試着させて、ねえ、こっちの方が似合ってるわよね? そうでしょ、と金持ち奥様が私に聞くんだけど、どっちでもいいっすよ、とも言えず、そうですね、こっちの方がいいんじゃないですか、とお金持ちの買物に付き合うのでした。

 

オペラ・ハウスは白い貝殻か白い帆が重なったようなタイル張りのユニークな建築物ですが、絵葉書で見たり海上から見るより実際に近づいてみると、ずいぶん大きくてそのスケールに圧倒されます。デンマークの建築家ヨルン・ウッツォンが設計し、14年の歳月と1億2千万豪州ドルの巨費をかけて1974年に完成したそうですが、様々なトラブルから竣工式にこの設計者は呼ばれることもなく、2度とシドニーを訪れることもなかったそうです。そんなことを考えながら白亜の大建築を間近に眺めると、複雑な思いが胸の中を駆けるのでした。

 

それから、シドニーに進出している韓国百貨店のギャラリア免税店に連れてゆかれました。そこは5階から1階まで全部免税店で、韓国語、中国語、日本語、もちろん英語を流暢に話す店員達に尊敬のまなざしを向けて、国民銀行ご家族お薦めのチョコレートだけ買って退散したのでした。

 

昼食の中国料理は美味しくなかったでしょう? (私達日本人にはあれでもずいぶん美味しかったのですが) 豪州旅行最後の晩餐はとっておきの海鮮鍋(ヘムルタン)をご用意しました。いつもの男性ガイドの得意そうな案内で、韓国レストランの2階にあがり、今夜もお金持ちご夫妻がお酒をおごりますと言われて、ソジュ(韓国焼酎)は海外ではどうしてこんなに高いんだ(10倍はする)? 韓国から持ってきて商売しようかなどと冗談言いながら、真っ赤な海鮮鍋をつついて、注ぎつ注がれつのソジュをストレートで胃袋に流し込むのでした。明日から現地の韓国料理と韓国焼酎をイヤという程食べるのになあ、と思いながら。

 

ということで、豪州四日目も白い砂浜と白いヨットと白いオペラ・ハウスと赤い海鮮鍋とソジュでした...トホホ。

もう明日?につづきませんが・・・

漢江南岸道路の速度違反の事実通知書が送付されてきたのは2月の初めでしたが、そのまま放っておいたら確定したようで、違反金の請求書が4月になってきました。18Kmオーバーで4万W(約4000円)でした。いつの間にか季節は冬から春に変わり、長い長い4泊5日の豪州旅行も終わろうとしています。

 

旧正月に韓国を脱出しようと豪州まで来ましたが、運悪く韓国ツアーに入ったので朝から晩まで韓国語を聞かされ、朝から晩まで韓国料理を食べさせられ、朝から晩まで韓国人の相手をさせられて、ヘトヘトになる豪州旅行でした。これは韓国駐在も3年を過ぎようとする、私達へ神が与えた通過儀礼か? もっとディープでもっとホットでもっとフレンドリーな韓国(人)を学べとの。

 

『 シドニー/ゴールド・コースト7日間というようなパック旅行は、できるだけ敬遠したほうがいいだろう。旅行商品としてパックされたオーストラリアには、じつはもうオーストラリアはないのだ。面白いオーストラリアは、パッケージの外にしかない。この大陸には、不思議な時間の流れと仰天するような自然があり、おおらかな人々がいる。 「オーストラリア旅行をだめにしているのは

旅行会社ですよ」と言ったのはある旅行会社のスタッフだ。「パックで売ったことでオーストラリアの良さを隠してしまった」と。 この壮大でドラマチックな大陸は、もとより旅行会社が作り出すようなパックに収まるわけはないのだ。

個人旅行−オーストラリア−  昭文社より    』

 

その通り! ご説ごもっとも!

でも、禁断の韓式団体パック旅行は、トホホで散々だったけど、それはそれなりに面白おかしく楽しかったのでした。オーストラリアに敷かれた韓国料理(キムチ)ロード、韓国移民者の連携システムとテキサス奥様や国民銀行ご家族やお金持ち夫妻、新婚のお医者さん、独身アガシをなぜか懐かしく思い出すのでした。

それでは次回、豪州旅行から解き放たれて、ディープでホットなご当地KOREAをまたご紹介しましょう。

 

 ソウルより 蒲谷敏彦


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