2004 蒲谷敏彦のKOREA REPORT 続6月号
KOREA REPORT (続6月号)
―― 聖火と携帯電話と餃子 ――
今年のアテネ・オリンピックの聖火リレーは史上初で五大陸を巡り26カ国33都市を走り抜けるそうです。先週豪州のシドニーを駆けた聖火は、小雨の東京で長嶋一茂さんや橋幸夫さんやバルセロナ五輪金メダルの岩崎恭子さんがリレーしたそうですね。ソウルにもやって来ました。特機事業部の河部長が、聖火が来ますよ、と言うので、知ってるよ、昨日は東京で今日はソウルでしょ、と言うと、じゃなくて、うちの会社の前に来るんですよ、と言う。
ええ〜 午前11時にソウル・オリンピック・スタジアムを出発してソウル市庁まで走るのは知ってたけど、うちの会社の前を走るの? そう、インターネットで調べたんですけど、もうすぐうちの前の道路を通過するらしいですよ。!!それは観に行かないと。一生に何度も見えるものじゃないし、なにしろタダなんだから。
1階のカニ料理屋の前にはもう人だかり...かと思えば、まだ誰もいないし、当社からも河部長とキャピキャピな事務員さん二人だけ。寂しいので当社に二人だけのもう一人の日本人駐在員を呼びました。それでも通りには日刊スポーツの報道車が停まって、中からカメラマンが望遠レンズを構えています。パトカーや白バイが交通整理をし始めたので、通りがかりのおじさんが、何かあるのかと尋ねて来ます。それも周りに韓国人が何人も居るのにわざわざ日本人の私に。聖火が来るらしいです。それはもうすぐか? 待っていれば分かりますよ。
会社の前を駆ける聖火リレー
サムソン電子やコカ・コーラの宣伝車が先導しているようです。ちゃんとスポンサーがいるのね。手持ち無沙汰にしていると、街頭応援用の三角の旗を配ってくれました。観衆が少ないので、一人に4本づつです。正式には OLINPIC TORCH RERAY ATHENS 2004 というらしいです。
こっちの方が派手というか
待つこと半時間ばかり、気がつくと交差点の信号はずっと青なのに、車は停まってる。交差点の向こうのいつも、イカやケブル(なまこのようなピンクの海の大ミミズのような...ちょっとグロテスクだけど、形が分からないくらいの短冊に切って、ゴマ油をつけて食べると、ほの甘く歯ごたえはコリコリと。この頃気に入ってます)の刺身で一杯飲る刺身屋の前では、次の走者に聖火のリレーをしているよう。ずっと青の横断歩道を駆けて渡ってみると、全然知らない韓国人(一般公募か?)が二人。その周りに警官と外人スタッフ。もう、走り出しました。またまた、ずっと青の横断歩道を走って追いかけましたが、トーチは揚花大橋に向かって去って行きました。あっという間の聖火リレー見物でした。
同じ日の夕方、昨年リニューアルした(KOREA REPORT 2003年8月号参照)携帯電話の調子が今ひとつだし、とにかく5年もすると古い携帯電話やパソコンは時代遅れになって人前で出すのも恥ずかしいものです。それで思いきって新型に替えることにしました。それも無料交換という看板の出ているお店で。総務部の柳次長の父兄同伴で無料のお店に来てみると、既存の011番(日本の090にあたる?)SKテレコムから、この頃新規参入会社の019番LGテレコムにすると無料なんだそうです。電話番号は変わりませんと綺麗な女子店員は言うけれど、011−XXX−XXXX の下7桁は同じだけれども、頭の011は019に変わるんだそうで(当たり前だけど)。これで電話番号が変わらないというのは、虚偽広告ではないのか?
それより、父兄の柳次長がチョグン イッタガ 少し後でもう一度来ます、と店員に答えて、店の外に私を連れ出したあと、019は感度が悪くてノイズがひどいです、歩きながら話すと声が飛ぶんです、と言います。それではKTX(高速鉄道)に乗っては話せないな、と思ってると、自分が良い店を知っていますから、と通りの奥の店に連れて行ってくれました。そこは011番携帯電話の老舗らしく先ほどの店に比べると乾物屋みたいで、店員も私よりひとつ年上だといいます。それでも、最新のいい電話ありまっせ旦那、というノリで商売が始まりました。
音声認識機能付き携帯電話
満員電車で女子高生なんかに誤解されたくないから、カメラ付きは要らない。でも、韓国はもちろん日本に出張したときに、そのまま使える国際対応電話が欲しい。というと、パソコンのインターネットでカタログを見せながら、旦那にちょうどお似合いの好いのがありまっせ、と言う。値段を訊くと無料じゃないが、既存の電話を下取りして安くするそうで、じゃあそれ下さいと決断すると、今ここにない(無いだろうな、この古い店には)ので取り寄せるので少し待ってください。じゃあ明日か、と尋ねると、いや30分くらいです。宅配で持ってくるらしい。30分と言うので待ってると、それが1時間になり1時間30分も待ってて、その間宅配の人が店の場所を電話で2回訊いてきて、店の主人は奥から年代物?のオムロン製の体脂肪計を出してきて、私にやってみろと言う。
身長と体重と年齢を入力して、両手で金属部分をしっかり掴むと、体脂肪率が出てきます。23.5%は擬似肥満ですね。25%以上は肥満ですから。何か運動してますか? この頃してないな〜 私はほら! ひとつ年上の店主は17%。痩せすぎじゃない? マラソンとスキューバダイビングしてますからと、自慢の写真を見せてくれました。パラオでも潜ったそうで、サメに水中銃を打ち込んでる写真です。
散々待たされて? 買ったサムソン電子製の携帯電話は、カラー液晶の世界ローミング機能付きで、日本のCDMAと提携しているよう。日本に行った時にはシステム変更すると、日本に居ながらそのまま電話ができるという優れものです。ハングルで書かれた分厚い取扱説明書を読んでる(見てる)と、電卓も世界時計もあるようです。音声認識という機能があったので何かといじりまわしていると、自分で電話帳に登録した、例えば金理事(キムイーサ)と携帯電話に話すと、キムイーサですね? と金属音の女性が応えてくれて、イエー(韓国語でハイ)と応え返すと、その登録された電話番号に自動で掛けてくれるというハイテクです。
キムカヂャン(金課長)とか、ムンサンム(文常務)とかいろいろ携帯電話相手に話してみます。携帯電話で話すのは当たり前ですが、携帯電話相手に話すと言うのは少し新鮮です。それはハイテクの音声認識度合いの問題より、私のハングル発音のテストになるのでした。BUTANIとか、OKAMOTOと電話帳にアルファベットで登録するとダメです。ハングル文字で入力しなければなりません。それを天安工場の事務員さんに贈り物をしてやってもらいました。オジのハイテク対応はローテクです。
4人に3人は携帯電話を持っているという韓国でも、携帯電話で会話しながら運転をしていて事故になるケースが問題になっています。先月、高速道を心ならずも携帯電話をしながら運転していると、ウウ〜というどこか聞きなれたサイレンの音。右横を見ると、女子レスリングのアテネ・オリンピック代表浜口京子選手のお父上のような厳つい顔の警官がパトカーを運転しながら、こちらを睨んでいます。それも路肩に停車しろとの身振り付きで。不承不承落ち着いて高速の右端に駐車すると、すぐ後にパトカーが着けて、警官が降りてきました。
運転席の窓を開けると、
『先ほど携帯電話で通話しながら運転していたでしょ (もちろんハングルで)』
『すみません、ちょっと、仕事の話しで...(とっさに日本語で)』
『モラゴヘヨ? (何言ってるんですか?)』
『チョヌン、イルボン・サラム インデヨ (私は日本人なものですから)』
『ウリナラエソヌン...(我国では携帯電話で通話しながらの運転は禁止されております)』
『はあ、そうなんですか』
『気をつけて行かれてください』
敬礼までされて、無罪放免となりました。韓国だけでなく、日本でも携帯電話で話しながらの運転は罰金ですよね。ということで、最新の携帯電話では、運転中の携帯電話使用を便利にするような音声認識機能を除外したものが多くなったそうです。
李鳳柱選手の生家を示す看板
韓国(当社だけかも知れない)では、誕生日は無論のこと、新車を購入したり、靴を買ったり、服を新調したりすると、ポンといって周囲の人に食事を奢るのが礼儀とされています。私も何度昼食や夕食を奢らされたことか。まあ、幸せなこと(靴を買ったり、服を買ったり出来るのは)があると、皆で祝って喜ぶというのはほのぼのとしていいものです。只単にただ酒やただ飯をねだってるだけにも思えますが、そんなマイナス思考は止めましょう。
ということで、私の新型携帯電話も目敏く見つけられて、天安工場の工場長と生産部長にお昼ご飯を奢ることになりました。東京の聖火リレーの最終走者は五輪初出場の福原愛さんでしたが、韓国はマラソンのベテラン李鳳柱(イボンジュ)選手でした。昼食に向かう途中でイボンジュ・マウル(村)というところを見つけました。李鳳柱選手の生家があるそうで、その前の道も李鳳柱路と命名されています。当社の工場近くにこんなに有名な人が居るとは知りませんでした。
夏はこれがいいですね。コン・カルククスという、大豆を擂った豆乳に麺を入れた冷麺を食べるのですが、冷麺だけでは口寂しいので、こちらではマンドウ(饅頭)といわれる餃子を頼みました。工場長の南さんが、スレギ(ゴミ)・マンドウと言い、部長の羅さんは苦笑いをして遠慮してるのか、いっこうに餃子を食べません。普通は一皿に六つだよね。2人でも3人でも4人でも分けやすいし、と言うと、羅部長が祭礼のお供え物は奇数という決まりがあるんですよ、と言います。そんなものかと、仕方なく五つの餃子のうち三つまで私が食べてしまいました。
夕刻、家に着いて昼食にマンドウを食べた話をすると、家内が大笑いして今朝の新聞を出してくれました。『大企業のマンドウも安心できない』という見出しで書かれた記事には、沢庵加工会社が国産または中国産大根の切れ端や残り物を廃棄せずに餃子加工会社に安値で売っていて、本来捨てられたり家畜類の餌になるようなもので、大腸菌や小腸菌?がいっぱいの餃子の具が発見されたんだそうです。げえ〜
毒には毒を。もう一度漆鍋食べに行ったほうがいいでしょうか?
次回は本当に綺麗なお話をしましょうね。出来ればね。
ソウルより 蒲谷敏彦
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