2004 蒲谷敏KOREA REPORT 7月号  

KOREA REPORT (7月号)

―― 夢みる子犬達 ――

 

 お暑うございます。暑中お見舞い申し上げます。

執筆用のパソコンも暑いのが嫌なのか? フリーズばかりしています。寒いとフリーズするのは分かるけど、暑いのにフリーズするとはね。で、7月号も書こう書こうと思いながら、暑さで夏休みの宿題みたいに伸ばし伸ばしにしていました。スミマセン。

 

それにしても暑いですね。そのうえ我が家のアパートでは、今朝から明晩まで断水ならぬ温水の供給が止まります。毎年夏に行なう温水配管の補修工事のようです。10年前に初めてソウルに赴任した時には37日間も温水が止まって、いくら夏とはいえ大変困って、9月中旬にはわざわざホテルに泊まって、久しぶりのシャワーに小さな幸せを感じたものです。当社に居るもう一人の日本人駐在員のアパートはもう一週間以上も温水が止まっているそうで、水風呂ばかりだったのか夏風邪をひいたそうです。

 

さて、今月号は手抜きで6月号の続編、姉妹編、まあその後のお話ですな。まずは、市内バス路線の変更騒動です。ソウルの市内バス路線が7月1日から一斉に大変身するのを6月号(KOREA REPORT 続続6月号)でお話しましたが、7月1日は市民も路線変更に慣れていないので、一日市内バス無料乗り放題にしたのまでは良かったのですが、3日経っても一週間経っても大混乱は収まりませんでした。通勤通学の人達でバス停は溢れ返り、わざわざ各停留所に案内のバイトまで立たせたのですが、どのバスに乗ってどこでどのバスに乗り換えるのか? さっぱり分からずに遅刻する人や路頭に迷う人々でいっぱいになったのでした。

 

おまけに道路中央にバス専用道路を造って、路面電車のように走らせたのですが、次から次から来る大量のバスにいちいち乗客が運転手に行く先を聞くものだから、停車時間が恐ろしく長くなって、バス停の前で車両が列を作って、本当に連結されたバスで次のバス停まで繋がってしまった、という笑うに笑えない状態になりました。

 

とある会合でソウル市長が、ソウル市民はバカだ、一年も前からバス路線が変わると言っているのに当日にならないと自分の乗るバスを捜さない、若い人たちはエライ、インターネットでちゃんと調べてから問題なく乗っている。なんて言ったものだから、バカなのは市長だ、とんだバス路線を作って充分な広報も出来ていない! と大問題になりました。あわてて、ソウル市はバス路線の掲示横断幕やチラシを各家庭に配り、市長は平謝りしたのでした。

 

  

我が家に配られたニ村洞を通るバス路線案内

もちろん、私たちも興味津々新バス路線に乗って市内の書店まで行きましたが、以前は38番で直通で行けたのにこれからは市庁前で乗り換えなければなりません。その上、ITオンチなオジはハングル・インターネットで調べることも出来ず、実際に乗っていちいち調査するローテクです。まあ、ソウル赴任時の初心に返って新鮮な海外旅行気分にもなっています。

 

昔のバスは前面はもちろんのこと、側面も後にも始点、終点、主要な停留所が所狭しとハングルで表示してあって、走る耳なし法一状態だったのですが、美観の問題か? 表示をすっかり小さく少なくしたものだから、バスが目の前に止まるまではどこへ行くのか、さっぱり分からなくなりました。ハングルが読めなければそれでも関係ないのでしょうが、れっきとした韓国人には大問題のようで、2週間もするとクレームがついたからか、各バス会社の自己防衛か、元のようにハングルの大きな表示がたくさん書かれて、半耳なし法一状態に戻ったのでした。やっぱり韓国の市内バスはこうでないとね。新しいものやカッコのよいものが実用的とは限らない、という典型的な事例がソウル市内を走って行きます。

 


   鹿の生肉料理、夏なのにエスキモーを連想する

ところで、先週の火曜日は初伏(チョボク)で暑さの始まる日。韓国では昔から犬肉料理、最近はサムゲタンを食べる日です。日本は土用の丑の日で鰻を食べる日でしたね。そこでやっぱり今日のお昼はサムゲタンかと思ってると、蒲谷さん、鹿は食べたことがありますか? ふ〜む、韓国で食べたものといえば、牛や豚、鶏以外では、犬、羊、猪、兎、なまず、どじょう、蚕くらいかなあ。でも北海道でトドとエゾシカ食べたことがありますけど...トドは鯨に似ていてなかなか美味。エゾシカは固くてね。

 

そんな与太話は誰も聞いてくれなくて、早く行かないといいところがなくなっちゃうと、天安工場から車で西に40分くらい、山の麓に入って行きます。生産1課の孟課長(メン・カジャン)のお父さんは鹿をたくさん飼ってるそうで、その一頭を捌いたとか。庭には大きなイチョウの木の前に農業用倉庫があって、もうまな板の上には血抜きされた鹿肉?があって、弟さんやお父さんが鹿刺しを造っています。

 

心臓が美味しくて滋養があるんですよ。薦められるままに思ったより柔らかい生の細切れ肉を塩ゴマ油につけて、これはもうソジュ(韓国焼酎)で流し込むしかないですね。薄い皮に包まれたなんとかいう内臓も生のソーセージと思えばそれなりに食欲も出てくるもので、口と胃袋は塩味と野菜でごまかし、精神はソジュで誤魔化して、なんとか6ヶ月目というメスの小鹿の肉を食するのでした。

 


高価な鹿の角(上、中、下の3つに分けられる、上が上物)


孟課長のお父さんは韓国で高価に取引される鹿の角を製造?販売していて、オス鹿の角は毎年春に切り取って、1本120万Wくらいで京東市場(ソウルで有名な漢方薬市場)に卸すそうです。伸び盛りの鹿の角は先っちょがぶよぶよと柔らかく、秋になると骨のように固くなるのが不思議です。話の種に見せてもらいましたが、これは食べる気になりません。もちろん食べるものでなくて、スライスして他の漢方薬と一緒に煎じて飲みます。

 

角はオスには生えるけど、メスには生えないもの。そこで増えすぎたメスは今回のように食べごろの小鹿のうちに食われちゃうんですね。自然の摂理を感じたなあ。あとでその鹿が飼われている檻も見せてもらったんだけど、すみません、さっき娘さんを食べちゃいました、とも言えなくて。日頃、牛でも豚でも鶏でも何も考えずに食べてるけど、鹿を目の前で食べると冗談なしでどうも後味が悪いのでした。

 

そんなこんなでソジュは昼からたくさん飲んだのに、ずいぶん食べ残した鹿肉は工場の檻で飼ってるメグミ(ボクサー犬)にお土産で持って帰ったらたいそう喜ぶだろうと思ったけど、そうも言えず手ぶらで帰ると何の夢を見ているのか、子犬達がすやすやと午睡を楽しんでいるのでした。

 

今月はここまで。今月も新鮮?でしたけど、来月は本当に新鮮な話題で行きましょうね。できたらね。

 

                ソウルより 蒲谷敏彦

 

おまけ;続・私は子犬

 


夏バテ気味な子犬達


 私は子犬。名前はメグミ。日本のお姉さんから名前頂きました。天安工場に貰われてきて1ヶ月。一匹ぼっちじゃ寂しかろうと、ボイラ用薬品製造の金さんが白い子犬を仲間に入れてくれたの。同い年の4ヶ月のオスなんだけど、私の半分もないからおもちゃにして遊んでたら、同じボクサー犬のお兄さんも貰われてきたの。

 

せっかく、ここは私の縄張りだったのに。最初逢ったときすぐ大喧嘩したのよ。でもやっぱり男の子だわよね。強いのなんのって。お陰で左耳の後に噛み傷ができたわ。嫁入り前のレディーにいったいなんてことするのかしら。責任取って貰うわよ。そのうちね。今は静かにしてるの。だって、お兄さん乱暴ですぐ怒るんだから。工場の皆は、お兄さんのこと、メグミ・オッパ(お兄さん)って呼ぶんだけど、オッパには好い人、恋人って言う意味もあるのよ、知ってる。私は恋人としてはぜったい願い下げだからね。私にも選択の自由があるというものよ。

 

そうそう、今日は初伏って言って犬肉料理食べる日ですって。キャイ〜ン。よしてよね、悪い冗談は。食べるんなら、小さい白い方にして頂戴。ボイラ用薬品製造の金さんは食用犬を飼ってるんですって。やっぱりね。変に親切だと思ったわよ。ワン。蒲谷さんや南工場長は鹿肉食べてきたんですって、私とオッパは昼間外で遊んでる時に、野鼠見つけたのよ。小さくてすばしこくって、どうしたらいいのか分からないので、鼻で突っついて遊んだんだけど、食べた方が良かったかしら。夏バテ防止にね。

 

私たち3匹まだ子犬だから昼寝も、夜寝る時も一緒。狭いだろうからって、檻の中に犬小屋二つも入れてもらったのに、いつも片方で3匹一緒に寝てるの。寝苦しいったらありゃしない。でもまだ子犬だからね。

 

                天安工場より メグミ


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