2004 蒲谷敏彦のKOREA REPORT 8月号
KOREA REPORT (8月号)―― ソウルな女性達 第6話 ヘース ――
暑い日が続きますが、かの中国ではサッカーアジア杯で日本代表が中国観衆の盛んなブーンイングの中、大健闘しています。もう何度もこれで終わり、もう負けた、という崖っぷちから生還しました。何事も本当に最後まで諦めてはダメですね。しぶとく生きましょう。しぶとくね。
さて、NHKのBS放送で『のど自慢ロンドン大会』の予選落ち特集をしていましたが、ちょうどその同じ週末、SJC(SEOUL JAPAN CLUB;ソウル日本人会)主催の日韓カラオケ大会のオーディションがありました。この話題は家内が日本語を教えている、王恵e(ワン・ヘース)ちゃんが持ってきました。ヘースは学級委員をしている中学2年生です。
オーディション会場で緊張気味なヘース
学校では女の子の友達より男友達の方が多くて、膝小僧やら肘に擦り傷が絶えず、小さい頃からままごと遊びより馬飛びのほうが好きな活発なお嬢さんです。お母さんよりしっかり屋さんで、お小遣いで買うおやつもトッポギ(ソーセージのケチャップ和えに見えるけど、実は白いお餅を真っ赤な唐辛子味噌で和えたもの)やプオパン(韓国風タイヤキ)は許せるけど、高価なハーゲンダッツのアイスクリームなどは贅沢だから買わないそうです。(買えない?)明洞(ミョンドン)などの繁華街にはまだ子供だから行かない、で行動範囲はこの二村洞町内だけです。
近頃、そんなヘースにも悩み事があるようで、先週いっぱいお母さんと口もきかなかったそうです。彼女の友達の多くは、カナダやイギリスや豪州に留学していて、頭の良さと活動的なことでは誰にも引けを取らない、ヘースとしては悔しいような哀しいような我慢ならない、誰にもぶつけようのない苛立ちに一人苦しんでいるようです。何不自由のないご家庭ですが、留学するような贅沢は出来ないと子供心に必死に我慢しているのでした。
韓国人の男子は16歳になると徴兵検査があり、その時期から実際に兵役義務を果たすまで、国外に出ることは禁止されるそうです。それで、中学2年生の夏が海外留学の最後のチャンスになるそうで、裕福な家庭のこの年頃の男子はもちろん、女子まで海外留学一色で、この冬の豪州団体旅行(KOREA REPORT 04年旧正月号参照)のように親から子供まで事前調査の海外旅行やら海外留学準備塾に通ったりで大忙しです。おまけにこの時期は世界的に夏休みで、ヘースの友達もカナダやイギリスの学校から帰って来ていろいろ話すものだから、ヘースの頭の中は海外留学でいっぱいです。それで、多感な少女はなんとなく母親と話すのを拒絶して、絶交みたいになっていたそうです。
まあ、そこで日韓カラオケ大会の話はいい気分転換。このカラオケ大会は、日本人は韓国語の歌、韓国人は日本語の歌を歌うという日韓交流大会ですから、せっかく日本語勉強してるんだから、試しに出てみたらどう?ということになりました。
それから曲目を選ぶのに一騒動あって、BoA(ボアって読むんですよ、念のため)のCDを買ってきて家内も一緒に歌ってました。オーディション当日は、家内と私が先に日本大使館広報文化院に会場入りしたのですが、開演時間を過ぎてもヘースとお母さんがいっこうにやってきません。やっぱりヤダとすっぽかしたのか? それとも道すがら留学の話で親子喧嘩になったのか? 暗い気持ちでオーディションの注意事項を聞いていると、15分遅れでヘース母子が到着しました。
午後2時からの部では、潮来の三度笠を歌うご老人や、浴衣姿のおばちゃんグループや、アニメ映画の『もののけ姫』のテーマソングを歌った男性ソプラノ歌手のような蝶ネクタイ締めた本格派やらの多彩な韓国人が、美空ひばりや五木ひろしや長渕剛や安室奈美恵や宇多田ヒカルや小柳ゆきをカラオケで(本当に舞台でカラオケ機器使って)歌います。どうも今日は韓国人が8、2の割合で多いよう。日夜、高いお金払ってお酒飲みながら、お姉さんと韓国語の歌をデュエットしているような、ネクタイ締めた歌人は昨日のオーディション1日目に集めたらしい。もしかしたらそんなお店から出張してきた、プロ顔負け夜の蝶達ののど自慢も昨日だったのかも。私はそちらの方が良かったのに。
歌より衣装、韓国アジュマ(おばさん)の艶姿
午後3時からが子供(青少年)の部のようで、小学生や女子高生のデュエットの後、いよいよ我らがヘースの登場です。家内とお母さんが二人カードセクションで、ワン・ヘース、パイティン!(ファイト!の韓国読み)、ヘースちゃん頑張れ!のカードをかざします。私はデジカメで撮影担当です。
♪気持ちはつたわる 必ず届いてく
さえぎるものなど 翔び越えて かならず
気持ちはつたわる 希望を追いかけて
涙は流れるの Can't you imagine it?
♪Check it up, Check it up Just wanna get your love
Check it up, Check it up Can't you imagine?
Check it up, check it up you Just wanna get your love
Miss you, Try me baby
『気持ちはつたわる』 作詞;康珍化
半分英語なので、日本語の歌というには少し反則気味な気もしますが、中学生なのでまあいいか。出場者は一番だけ歌うというルールでしたが、この歌はどこまでが一番なのか判らないので、カラオケ操作担当のおじさんが混乱してほとんど最後までいっちゃいました。最後に出てきた、6歳と4歳の兄弟ユニットが歌うSMAPの『世界に一つだけの花』は音程が少し狂ってたけど、良かったなあ。ソウルで韓国人が歌うと、なんだか意味深な歌詞だし。まあ、子供だから深くは考えないだろうけど。
♪それなのに僕ら人間は
どうしてこうも比べたがる?
一人一人違うのにその中で
一番になりたがる?
♪そうさ 僕らは世界に一つだけの花
一人一人違う種を持つ
その花を咲かせることだけに
一生懸命になればいい
『世界に一つだけの花』 作詞;槇原敬之
4時からが本当のご老人の部のようで、韓国人のおじいさん、おばあさんが演歌や民謡をお歌いになります。でも、日本人の審査員との一問一答は日本と韓国以上にチグハグです。
『おじいさん、フランク永井の歌がお好きなんですか?』
『ええ、日本語は中学のときに覚えさせられましてな』
『これからも日本語の歌を楽しまれてください』
『ええ、ええ、あんたも元気でな』
戦前に習われた日本語が錆付いたのか? 寄る年波にお耳が遠くなったのか? それとも単にボケてるのか?
何はともあれ、大舞台に柄にも無く?緊張したヘースと出場者の中で声だけは一番大きかった、誇らしい娘をみる母親が目出度く仲直りして、なかなか味のあるオーディション会場を後にしてゆきました。9月11日の日韓カラオケ大会本番には20組が選ばれて出場するそうですが、オーディション通過はSJCのホームページ( http://www.sjchp.co.kr/ )に8月末に掲載されます。154番 王恵eの名前があるように皆で祈りましょうね。本番には冬ソナのペ・ヨンジュが出演すると信じている家内の夢とともにね。
で、その話はまた来月の心だあ〜
ソウルより 蒲谷敏彦
おまけ;へ―スちゃんへの質問表
質問1.学校で好きな学科は何ですか? 嫌いな学科は何ですか? それはどうしてですか?
答え.ぜんぶすきです。各教科特性があるのでぜんぶすきです。(自筆)
質問2.好きな食べ物は何ですか? 嫌いな食べ物は何ですか?
答え.ぜんぶすきです。(中華料理以外) (これも自筆)
* オジ注) ロンドンに短期留学している時、中華料理のまずさには閉口したとか。留学慣れしている韓国人学生は、韓国海苔とコチュジャン(韓国辛子味噌)を大量に持って行くとか。
質問3.日本と日本人をどう思いますか?
答え.韓国人は大部分、日本にライバル意識があって、日本との交流をあまり好きではありませんが、私は外国の良い文化は学ばなければならないと考えています。今、日本は韓国より発展した文化をもっているので、日本、日本人を悪く考えることは時代錯誤だと思います。だから私は、日本語を習いながら日本人の先生と友達になり、日本が好きになりました。(これは家内が翻訳、以下同)
質問4.将来なりたい職業は何ですか? どうしてその仕事をしたいですか?
答え.@外交官になりたいです。韓国と外国の親善に尽くし、外国に韓国のイメージをより良いものにするため、また金鮮一氏(イラクで拉致されて、駐留韓国軍の撤退と引き換えに殺害された韓国民間人)の死亡のような不利益を受けることの無いように努めたいです。
A精神科医になりたいです。生きる質(サルメチル)が高くなり、だんだん精神的な苦痛や不安を感じる人が増えました。私が好きな美術作品鑑賞を通して、そんな人々のための仕事をしたいと思います。
おしまい
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