2004 蒲谷敏彦のKOREA REPORT 9月号
KOREA REPORT (9月号)―― 韓国(経済)いろいろ ――
日本では真夏日の年間記録を更新したそうで、9月とはいえ残暑厳しいようですが、皆様いかがお過ごしでしょうか? ソウルはいつものような晴天でも日差しの強い夏の空からどこか秋の空に変わりました。流れる雲にも涼やかな風情があります。
イチローは大リーグの年間最多安打記録へ一歩一歩近づいていますね。今日は5打数5安打で一気に5歩ですか。小泉さんもNYで観戦した松井秀喜選手の活躍とともにアテネ・オリンピックと夏の高校野球が終わった今となっては、殺人事件や幼児虐待などの嫌なニュースばかりの中で数少ない楽しい話題のひとつです。
我が家でとっている韓国の新聞、中央日報の創刊39周年特集のアンケートによると、国民の79%が自分のことを中層階級と意識しているそうで、02年のサッカーW杯以後着実に経済的な落ち着きを示していましたが、この秋には行き交うタクシーもどことなく元気がない不景気感が漂うソウルです。IT産業主導、輸出主導で引っ張ってきた最近の韓国経済もピークを越えて、米国経済、イラク情勢、原油や鉄鋼材料の高騰などにより、消費者心理はすっかり冷え込んで経済の下落傾向が見えるとのもっぱらの報道です。
そんな9月初旬、松山で創立80周年を迎えられたM大学の経済学部の先生方、同学生さん達とずっ〜と昔の学生さん達?ご一行20余名がソウルにやって来られました。国際経済コース特殊講義『韓半島経済論』セミナーだそうで、建国大学(M大学と交換留学生をしていて、『ソウルな女性達』第1号マキコはM大学生でした。)の留学生会館で4日間の特別講義を受けられました。2日目の特別講師がどういう訳かソウル駐在員の生の声を聞くと言う目的で、不肖私になりました。
建国大学はソウルでも有数の大きなキャンパスで学生も2万人以上居るといいます。セミナーの主催者、韓国から松山に来ている交換先生?の張助教授が同行しながら、蒲谷さんはどちらの大学ですか? M大学さんの隣の大学出身です。はあ、あなたの大学はこのキャンパスの池の中に入りますね。というくらい大きな池を半周して留学生会館に到着しました。韓国人らしい物言いの助教授は4年前から松山駐在だそうで、ちょうど私と反対です。
準備に3日かけた資料を用意してもらったプロジェクターで白い壁に映しながら、小教室で早速講義?を始めました。
オリンピックの国旗掲揚じゃなくて、韓国での国家イメージ
『皆さん、韓国によくいらっしゃいました。アテネ・オリンピックは見られましたか? 韓国でも夜明けまでTVを見て睡眠不足が問題になりました。日本人選手の活躍は素晴らしかったですね。メダル獲得数は米国、中国、ロシア、豪州についで世界5位(金16個、銀9個、銅12個)でした。ところで韓国のメダル獲得数はいくつだったか? 分かる人いますか? そう、金メダル9個(銀12個、銅9個)で9位でした。ちょうど韓国の世界での位置付け(世界11位の貿易立国)に似ていますね。』
『皆さん、韓国をどのくらいご存知ですか? 「冬のソナタ」見られました? はあ、全員。韓国映画の「シュリ」は? いっぱい。「JSA」は? 「シルミド」は? 少ない。先日封切られた「ブラザーフッド」は? やっぱり少ない。私のお薦めの韓国映画は少し古いですけど、「ペパーミント・キャンディー」と「8月のクリスマス」です。「ペパーミント・キャンディー」は特にフィルムが逆転して汽車が逆行している景色が主人公の男の人生と韓国現代史の回想を暗示していて、とてもいいです。ビデオも出ているようですから、韓国にご興味がおありでしたら是非観てください。』
『私の勤務している会社は、産業用ボイラの製造・販売・メンテナンスをしている韓国ミウラ工業鰍ナす。日本の松山に本社がある三浦工業鰍フ日韓合弁会社ですが、中国の上海三浦有限公司、台湾の三浦鍋炉有限公司にしても、どこも漢字の国ですから三浦が三浦になっていますが、韓国だけは韓国ミウラ(実はハングル表示)になっているのは、何故だか分かりますか? これがお分かりになる方は相当の韓国通ですが...』
『日本と韓国は古代から密接な関係がありましたが、特に近代になっては、それこそいろいろありましたね。1853年ペリー来航で鎖国の夢から覚醒させられた日本は、当時「隠者の国」と言われていて同じように鎖国政策をしていた李朝朝鮮を1875年の江華島事件をきっかけに開国させます。不平等条約で苦しんでいた日本が朝鮮に不平等条約を押し付けます。』
『脱亜入欧、富国強兵で国威を挙げてゆく日本は、1894年日清戦争で遼東半島と台湾を獲得しますが、ロシアの3国干渉で遼東半島は返還させられます。この頃から日本はロシアを非常に意識し始め、朝鮮半島は日本とロシア双方の大きな関心事になります。朝鮮は親日派と親露派に分かれて政争を繰り広げますが、親露派の中心が国王高宗の王妃、閔妃(ミンピ)でした。日本としてはやっかいものを排除するということで、1895年10月8日早朝、宮廷内に暴漢が乱入して閔妃を惨殺します。』
『閔妃は国の母として敬われていました。喩えれば、在日米軍の兵士が皇居に侵入して皇后を暗殺するようなことですから、これは朝鮮国民にとって大変ショックな事件でした。この暗殺の指揮をとったのが、当時ソウル(漢城)公使の三浦梧楼(長州出身の軍人)でした。ということで、韓国では三浦はよくないイメージの名前なのです。それで韓国ミウラ工業はハングルでミウラとして、三浦とは別なイメージを持たせています。』
『その後、朝鮮内には親日的な政府が成立しますが、義兵闘争が活発になりこの頃から反日が顕著になります。その後1904年には日露戦争に勝利しロシアの干渉を排除して、日本は朝鮮を保護国(植民地の一歩手前)にします。1909年10月にはこれらの政策を進めていた伊藤博文がハルピンで朝鮮人の安重根に暗殺されます。今でも日本からみればテロ犯の安重根は韓国では国民的大英雄です。そして、1910年8月韓国併合条約が締結され、韓国は36年間の日本統治時代に入ります。景福宮の前に宮廷を覆い隠すように朝鮮総督府が建てられますが、それもつい最近取り壊されて日帝時代の負の遺跡(意識)を排除しているようです。』
『曽我ひとみさんもジェンキンスさんと無事再会できて本当に良かったですが、私はなんてややこしい人生を生きてきたんだと言っておらましたね。ここ韓国も本当にややこしい歴史を持った国です。1945年8月太平洋戦争終結でやっと日帝から開放されたのもつかの間、北と南に分断されて1950年には親子兄弟で戦うような同族戦争が起り、停戦後は北と南に離散家族を残し、1961年にはクーデターで軍事政権が樹立、79年10月の暗殺まで朴大統領の独裁政治が続きます。』
『82年5月に当社が創立しますが、その後だけでも大韓航空機撃墜事件(83年9月)、ラングーン事件(83年10月)、大韓航空機爆破事件(87年10月)、ソウル・オリンピック開催(88年9月)、韓ソ国交樹立(90年9月)、国連加盟(91年9月)、韓中国交樹立(92年8月)、OECD加盟(96年10月)、北朝鮮潜水艦侵入事件(96年9月)、経済危機(IMF、97年11月)、南北首脳会談(00年6月)、サッカーW杯韓日開催(02年6月)、など韓国経済は奇跡の成長と復活を遂げますがいろいろあったんですね。ほんとに。』
『時間も押してきましたので、まとめに入りましょうね。1.韓国経済は「調子の悪いシャワー」。その心は、すぐ熱くなったり冷たくなったり...する。2.日本の常識は「世界の非常識」。日本ではこんなことない!は、世界では... 3.バドワイザーの缶ビールが品薄になると...米軍が買い占め→南北関係が緊張している。4.目先にとらわれず、遠くの目標を見てふらふらせずに、夢を持って歩いて行こう。そんな気持ちで頑張っています。ご清聴ありがとうございました。』
『何かご質問ありますか?』
当世の学生は女子が元気。手を挙げるのは女性ばかりです。
『海外で働く時に重要なことは何ですか?』
『体が丈夫なこと。何でも食べられること(犬でもね)。出来ればお酒も強いこと。もちろん仕事が出来ること。そしてその国のこと、その国の人をよく勉強すること。』
『海外駐在員に選ばれる要因は何ですか?』
『私も昔、海外事業部長に同じ質問をしたことがあります。答えは海外に出して恥ずかしくない人材だそうです。言い得て妙です。近頃恥ずかしい人が海外に出すぎです。あなたのことではありません。』
おや、珍しく男子学生の手が挙がりました。中国にも工場がありますか? 中国の事務所はどこにありますか? 農業用のボイラありますか? 活発な質問ですが、韓国経済の講義しているのに変な奴だなと思っていたら、日本語の流暢な中国からの留学生さんでした。元気なのは女子と中国だけですね。
中央日報の創刊39周年特集記事を見ていると、国旗でベスト3が表示してありました。アテネ・オリンピックの続報かと思うと、さにあらず、「韓国人100人?に聞きました」でした。
一番好きな国は? 1位米国(14.3%)、2位豪州(13.7%)、3位スイス(13.7%)
一番嫌いな国は? 1位日本(41.0%)、2位米国(24.3%)、3位北朝鮮(10.8%)
一番手本にしなければならない国は? 1位日本(32.8%)、2位米国(14.3%)、3位中国(9.7%)
一番経済的に協力しなければならない国は? 1位中国(44.3%)、2位米国(28.8%)、3位日本(14.7%)
ねえ、複雑で微妙でしょう。女心じゃなくて、韓国の人達のことですよ。今月はまじめなお話でした。でも昔は大韓航空機がよくターゲットになりましたね。明日からそれに乗るんですけど大丈夫でしょうか? で、その話はまた来月の心だあ〜
ソウルより 蒲谷敏彦
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