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いびき



ローカル紙の医療欄への投稿です。「いびきが大きいので入院したとき隣で寝ている人への迷惑が心配だ。どうになならないか?」という質問に答える形式です。


 いびきの治療は、いびきが「本人の健康を害している」場合と「単に周囲の人にうるさい」というだけの場合とでは、考え方が違います。いびきが本人の健康を害している場合は病気と認識できますが、「周囲にうるさい」だけでは必ずしも病気とは断定できないからです。「うるさいいびきを治したい」と治療を望まれる患者さんのお気持ちは分かるのですが、医学上は微妙な問題もあるのです。このこともご理解をお願いします。
 いびきの原因は肥満、過度の飲酒、加齢、代謝障害、中枢神経系疾患などの全身的な原因と、鼻や咽頭の形態・機能異常の局所的な原因など、実に多くの理由が考えられます。耳鼻科や内科などが協力して原因を探します。
 いびきの大きい人は、しばしばいびきの途中で息が詰まっている状態(無呼吸状態)になります。この無呼吸時間をご家族に測ってもらってください。息が詰まっている時間が10秒以上かどうかが目安になります。またいびきの音質等でも原因を推察できることもあるので、いびきをテープに録音するのは有力な手がかりになります。
 いびき(睡眠時呼吸障害)が引き起こす健康障害には、心臓・循環器系へ負担がかかるために起こる心臓病や高血圧と、睡眠が浅くなるために起こる慢性の睡眠不足が代表的です。健康への悪影響が疑われる場合は、睡眠中の心電図や呼吸を記録したり睡眠脳波を調べて、健康障害の程度を診断します。
 いびきの治療は原因や程度によって違いがあり様々です。全身的治療では、肥満の人は食事療法などで体重を減らし、酒飲みは飲酒量を控えます。特殊例ですが睡眠リズムを調節するための薬治療なども有効なことがあります。鼻や咽に病気がある場合は(例えばアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎)治療をします。機器、装具を使った治療としては、睡眠中に咽が狭くなるのを防ぐマウスピースや、鼻マスクから空気を送り込む機械を着けて眠る方法などがあります。手術治療では鼻詰まりを治す手術、咽を広げる手術などがあります。
 いびきは睡眠中でないと状態を観察することが出来ません。原因も様々です。しかも「いびきが大きい」というだけは治療に取りかかるべきかどうかは決められない、という微妙な問題もあります。診断・治療は難しいのです。患者さんはまず、いびきの状態をご家族によく聞いてもらって下さい。その際、「うるさくって迷惑だ」という観点からではなく、いびきをかく「ご本人の健康を考える」」という視点が大切だと思います。