蒲谷敏彦KOREA REPORT

蒲谷敏彦KOREA REPORT (5月号

----- Original Message -----
From: "butani" <butani@kornet.net>
To: "H.Watanabe" <h.syncia@nifty.com>
Sent: Saturday, may.4, 2002
Subject: KOREA REPORT 5月号

漢江に雨が降っています。

シトシトと川面を打っています。

北朝鮮から流れてきた水は、ソウル市の中心をとおり西海(黄海)へ流れ込みます。

 

1986年北朝鮮は漢江上流に金剛山発電所ダムを着工します。韓国は即刻建設中止を要求します。

このダムは軍事境界線の10キロ北で、高さ200メートル、幅1.1キロメートル、総貯水量200億トンに達する巨大ダムで、年間80万キロワットの電力を作ろうというものでした。

問題は、このダムの貯水量が9億トンに達した時(それはソウルオリンピック開催の'88年になるという計算でした。)に、もし意識的にこのダムを決壊させた場合、その下流にある韓国側のダムも次々と崩壊し、毎秒50万トンの噴流がソウルに押し寄せるのだそうです。そうなるとソウル市一円は20メートルの水深下に沈み、漢江のすべての橋は流失、道路・鉄道も破壊され、1500万人の被災者がでるというのです。(9億トンでこのありさまですから、完成時200億トンの水が韓国に押し寄せると、韓国北部は廃墟になるという)

ソウルオリンピックに向けた北朝鮮の軍事(テロ)戦略に、韓国は即座に対応します。軍事境界線の南側に『平和のダム』を建設し始めます。高さ220メートル、幅1.2キロメートルで北のダムより一回り大きいダムを下流に造って、水には水で対抗しようとしました。

 アートメトロ

6号線地下鉄駅を出発するアートメトロ

その後北朝鮮は資金難でダム建設工事を中断していました。息を吹き返したのは、皮肉なことに韓国側からの金剛山観光でした。金剛山観光で得たお金で'99年北朝鮮は金剛山ダムの建設を再開します。そして出来上がったダムが、2002年ワールドカップの年に真昼の幽霊のように出てきたのでした。

韓国の中央日報に今月次のような記事が掲載されました。

 

『  金剛山ダムの崩壊に備え、華川ダムなどを放流

  韓国政府が朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)金剛山(クムガンサン)ダムの崩壊に備え、「平和のダム」と華川(ファチョン)ダムの水を放流することを決めたことによって、漢江(ハンガン)水路の水不足がさらに深刻化するものと懸念されている。

  建設交通部(建交部)の金昌世(キム・チャンセ)水資源局長は「人工衛星の写真を分析したところ、金剛山ダム(任南ダム)の頂上部分に幅20メートル、長さ15メートルの損傷部位と、その約半分の大きさの損傷部位など、2カ所の損傷部位が発見された」と説明した。

  金局長は「金剛山ダムの破損による崩壊など、万が一の状況に備えて、今年は平和のダムと華川ダムの水を放流し、平和のダム補強工事を6月まで施行したい計画だ」と述べた。金剛山ダムは16カ月という短期間に急造されたもので、ダムが完工しない状況で貯水を始めるなど、ダムの安全性に問題が発生した可能性が高いものと懸念されている。

  推計によると、金剛山ダムの貯水量は現在約6〜7億トン位だが、洪水時の貯水量は約12億トンまで増えるものと予測されている。

  政府はまた、今月7日からソウルで開かれる南北経済協力推進委員会で、金剛山ダムへの共同調査を議題として採択し、金剛山ダム下流地域の用水供給や洪水防止策など、北漢江(プクハンガン)水路を共同で管理する案を提案する予定だ。

  しかし、南北交渉による合意が成立しない場合は、平和のダムを40メートル余り建て増しするなどの長期対策を進める。

申ヒェm(シン・ヒェギョン)専門記者
2002.05.03 21:44   』

地下鉄車内

暗い地下鉄車内(床には前衛アートが)

今年の梅雨はワールドカップの試合と共に、雨の降り方に注目せざるを得ない韓国です。

ソウルが水深20メートルの水の都になった時、私のアパートは8階なので辛うじて生き残るか?

車は地下2階の駐車場だから、完全に水没だななどと考えている今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか?今月のKOREA REPORT前置きが長くなりましたが、ワールドカップ直前情報号をお送りします。

 

さて、心なしか外人さん(私もこちらでは外人ですが、白い人とか黒い人で見るからに外人さんのこと)が増えてきました。地下鉄の駅も万国旗や出場チーム紹介ボードなどの飾り付けで賑やかです。そんな景色の中記念写真を撮っている外人さんが目立ちます。

ソウルワールドカップ競技場駅のある地下鉄6号線には、アートメトロなるものが走っていました。地下鉄車両が丸ごとワールドカップ尽くしの芸術になっています。ある車両は窓を遮光してブラックライトを点灯し、蛍光色のアートが浮かび上がるようにしています。白いシャツや運動靴が光ります。彼と座っていたアガシ(お嬢さん)の歯が白く光っていたのですが、よく見ると整形したらしい鼻もうっすら青く光っていました。(ヒェー) 床は黒い縞鋼板で覆われており、そこにガラス窓が造られてその中には昆虫や爬虫類風のアートが。

 

サッカーの全日本もスペインやノルウェーに行って練習試合に余念がありませんが、全韓国もやってます。先月仁川の文鶴ワールドカップ競技場で韓国対中国戦を観ました。土曜夜7時から試合開始でしたが、昼の2時に新しく開通した仁川地下鉄1号線でスタジアムに到着した時にはすでに当日券はありませんでした。でも、良くしたものでダフ屋さんがウヨウヨしています。総合案内所で当日券が無いと聞いてガッカリしていると、すぐそれ風の男が近寄ってきて

『ピョ イッソヨ (切符あるよ)』

と言ってきます。前回ソウル競技場(KOREA REPORT11月号参照)で悔しい思いをしましたので、

今回は躊躇わず即買いました。3万W(約3千円)のB席が5万Wでした。

 

時間がありましたので、富平(プピョン)の街の地下街や市場で買い物や食事をして午後6時にスタジアムに再到着すると、とんでもない人数の観客が集まっていました。一度に入場ゲートに向かわないように機動警察隊員が作る人間ゲートで誘導されます。このあたりは日頃デモの鎮圧で慣れている韓国警察のほうが日本よりウマイようです。テロ対策のボディーチェックや手荷物検査があるので、本物の入場ゲートは満員電車の中みたいです。缶コーヒーや缶ジュース、ペットボトルも持ち込み禁止です。紙コップに移し替えさせられます。グラウンドに投げ込むと危険物になるということでしょうか? コークは気が抜けた黒い砂糖水になってしまいました。

 

観覧席に着くと右側のゴールネット裏は、今では随分有名になった全韓国サポーターのレッドデビル団が占領しています。皆赤いユニフォームに赤いタオルを持っています。

『テハンッミング(大韓民国) チャチャッチャ、チャンチャン (ニッポン チャチャチャのノリで)』

『テハンミング テハンミング テハンミング コーリア (ベートーベンの第九喜びの歌にあわせて)』

統制された応援が続きます。静かに観ていると前席に座っていたゴールキーパーのユニフォームを着た若者に応援しないのか?みたいな怪訝な顔で

『中国人ですか?』

と聞かれました。ここには韓国人と中国人しかいない?

韓国人より圧倒的に少数ながら、中国人サポーターも中国国旗とパンダの旗を元気に振っていました。

 

試合の方は韓国の圧勝かと思いきや一進一退で、どちらもなかなか点が入りません。中国側のペナルティーエリアぎりぎりで2度も韓国選手が倒されました。さあ!韓国のペナルティーキックかフリーキックかと、球技場は沸き立ちます。が、主審の松村さん(もちろん日本人)は笛を吹きません。レッドデビル団を中心にブーイングが起こります。主審帰れ!コールも。後半は韓国が点を取れそうで取れない欲求不満感からかなり険悪なムードが漂います。なんだか日本が抗議されているようで、またまた私たちは韓国人の真っ只中で大変肩身の狭い思いを味わいました。ピッチの上でも、スタンドの中でも韓国対中国対日本の複雑な国際情勢も反映した熱いドラマが展開したのでした。

仁川競技場

韓国サポーター レッドデビルが展開する大テグキ(大極旗)

さあ、いよいよ5月31日ソウル競技場でワールドカップ開幕戦です。韓国の犬肉料理の専門店主らでつくる『全国ボシンタン連合会』は、ソウルオリンピック時の自粛・廃業とは打って変わって、今回は競技場周辺で犬肉料理試食会を開いて伝統料理文化の普及をするそうです。曰く、スープ料理の補身湯(ボシンタン)、ゆで犬肉といった一般的な料理のほか、犬肉サンドイッチやハンバーガーも用意するそうです。これがホントのホッドドッグか?

 

などと話題満載の韓国でのワールドカップにも目が離せませんね。

それでは、また来月お話しましょう。

 

ソウルより 蒲谷

 
 
 蒲谷敏彦  ソウルにて
e−mail; jmiura@kornet.net
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